作品名:トリガー
作者:城ヶ崎 勇輝
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 時刻は11:47
 トリガーこと神谷鳥牙と、チーこと吉川千惟は国会議事堂の北西350m先にあるワイルドナルドにいる。
ワイルドナルドといえば安さと早さとデカさが売りのハンバーガー店。しかし、今はと言うと、ハンバーガー単品でも千円。値段の上昇によって客足が減って、アルバイトの定員を減らしたのだろう。注文して30秒以内にほかほかのハンバーガーがやって来たのに、今では5分たっても来る気配はない。
そして、ワイルドナルドファンが最もショックを受けたのは名前の由来であるワイルドバーガーの規模が1/10になってしまったことだ(もういいって)。今では普通のハンバーガーの2倍程度の大きさしかない(ちなみに普通のハンバーガーの大きさは口を大きく開けてやっと入る程の大きさ)。これらの原因の根源にはクラックエイジの影があるのはもう存じているだろう。

    〜トリガー〜 戦闘へ

 少ない客の中で、トリガーはゆっくりとハンバーガーを食べている。そして、久々のコーヒーも(やはり値段は高い)飲んでいた。チーは大金を払ってまでワイルドバーガーを男顔負けに物凄い勢いでほおばっている。
もちろんワイルドナルドのハンバーガーを食べるためにここに来たのではない。あくまでこれは住民に紛れるためだ。
設定的には、2人は恋人同士で、チーがどうしてもワイルドバーガーを食べたいと言い出したので大阪からわざわざここまでやって来たと言う事になっている。実際、ワイルドナルドはここだけしかなく、後は全て潰れてしまった。
なぜ大阪かと言うと、チーが大阪出身と言う事もあるが、彼女の銃の全長は約109cm。懐には隠せない大きさなので、スーツケースに入れておくのだ。スーツケースおもって近隣をお散歩する人は、まずいないから大阪と言う設定なのだ。
そんなわけで、ただいまの時刻は11:54
「じゃあいこっか。チー」
コーヒーを飲み終わったトリガーは自然な感じで言った。
「もうちょいええやろ?この、このハンバーグを食べなあかん!」
ワイルドなチーがワイルドバーガーのジューシーな肉を指す。
「あ〜…40秒で食べ」――ろよと言おうとした時にはすでにワイルドバーガーは跡形もなく消え去っていた。
「あ〜食った食った〜。あ、会計よろしくな!」
チーはスッと立ってスーツケースをゴロゴロならしながら外に出て行った。
「会計って…ファーストフードは前払いだぞ…」
失笑しながらも、トリガーは恋人と追いかけっこするかのように外へと駆け出した。
ちなみに、トリガーは27歳である。神谷たみと言う奥さんも、神谷なみという娘もいる。

 2人の隊員は道路を挟んですぐに国会北西門が見えるところにいた。門にはクラックエイジだと思われる人物が2人、銃を構えて立っている。
そして時刻は11時55分55秒。
2人…いや、シューティング隊全隊員が一斉に上着を脱いだ。そしてシューティング隊独特の軍服が姿を現した。
なぜ上着を着たまま戦わないのか…。それは、そっちの方が簡単に動きやすいためである。
そして時計の長い針と短い針が重なったその瞬間、トリガーは9mm拳銃を内ポケットから引き出し、麻酔弾を2人の門番向かって撃ち―敵は全く気付かずに―眠らせた。
周りにいた隊員がいっせいに門内に入る。
ただ、トリガーとチーはまだ入らない。チーがM24スナイパーライフルを出しているからだ。
国会から警報が鳴り響き、国会の2階の窓からクラックエイジの射撃手が残された2人を機関銃で狙い撃ちする。
トリガーとチーは電柱と塀と走り行く車の影に隠れ、彼は拳銃で車と車の間をすり抜けるように銃弾を発射し、一人、また一人と打ち倒す。その窓は次第に赤に染まっていった。
司令官が言っていたように出来るかぎり犠牲者を減らすために敵の肩や腹などを撃ち、戦闘不能にだけさせる。
チーはその中でも冷静に弾を確認し、予備の弾を入れるための革袋を腰に装着した。
「できはったで」チーはその一言だけ言った。
トリガーは敵射撃手がいなくなると手で合図をしながら車の隙間隙間をすり抜けた。チーも軽々とそれに従う。普通の人には出来ない荒業だ。
2人は背中を合わせてどの方向から銃撃されてもすぐに反撃できるようにしながら進んだ。トリガーから見て前に、参議院へ進んだ。
しかし、今は天皇中心の世の中。参議院は昔、貴族院と言う名で、天皇と親しい。だからもちろん、そこの警備は他よりも更に厳しい。
国会の正面の方へ曲がった瞬間、彼らはクラックエイジの集中攻撃を受けた。そして、一瞬にしてトリガーの目に焼きついたのは数十の遺体が転がっていたと言う、悲惨な光景だった。
奇跡的に国会の側面に戻る事ができた2人は、しばらくそこに待機した。
しかし、息抜きをする間もなく、コロコロと手榴弾が転がってきた。
「チー!逃げろ!はやく!」
トリガーの緊迫した叫びとほぼ同時に手榴弾が炸裂した。
2人は爆風で吹き飛んだ。しかし、手榴弾が近いところでない場所で炸裂し、大股3歩ほど2人はその場から離れていたので致命傷には至らなかった。ズボンの裾が一箇所破れた程度だ。だが、それによって国会の一部が破壊された。
「大丈夫か?」
トリガーが砂埃を払いながら囁いた。
「このくらいで大丈夫や無かったらシューティング隊辞めとるわ、アホ!」
チーの元気な怒声がとんできたので、トリガーは安心した。
「よし、じゃあ…」トリガーは後を見ずに、向かってきた敵の銃の銃口を拳銃で撃った「任務再開だな」
撃たれた敵の銃は暴発し、その銃は跡形も無く吹き飛び、彼の腕の一部もまきぞいを喰らった。
「せやな」チーはライフルを構えた「こんな日本、早く終わらせんとな」
急いで2人は手榴弾によって破壊された国会の角辺りに移動しチーはライフルと顔を一瞬だけ出し、小数点単位の時間で狙いを定め、トリガーを引き、敵の腕や足は噴水のような血を噴き出す。
トリガーはと言うと、大胆にも敵の射程地域にダイビングで飛び込み、左肩が地面をすれるまでに数人のクラックエイジ射撃手が地面に突っ伏した。
さすがにダイビングは想定外だったのか、クラックエイジは一瞬ひるんだ。
この一瞬を逃さないのがまさにプロだ。2人は機関銃の銃口向かって弾を打ち込み、さっきの銃と同じような運命を辿った。残ったクラックエイジは我先にと国会内へと逃げ込んだ。
2人の命中度はシューティング隊の中でも1、2を争うほどの実力なので、こんな神業が成し遂げるのだろう。
「ふう…じゃあ…行くぞ」
トリガーは血まみれになって死んだ仲間達をじっと見ながらゆっくりと国会内部に潜入した。
チーも、さまざまな思いを胸に頷いた。
一緒に厳しい訓練に耐え、笑い合って、楽しみ合った仲間たち…。しかし、そんな思いも今はすれなければならない。
 それは、戦場で戦う人々の宿命なのだ。
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