作品名:i n f u s e
作者:さくらみなこ
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緑に覆われる緑色地。
豊富な食物と満たされた心。
人々は互いを助け合い、家族を作り幸福に暮らしていた。
太陽の光に満ちたその日、城の聖堂では
現ルディア王の第一王子リオン(男)とアルテ(両性体)の
婚儀が行われていた。
城の広場では誓い合った二人を一目見ようと、群衆で溢れている。
いまか今かと待ちきれない民達の興奮は一気に高まり、
リオンとアルテの名を一人が叫び出す。
その声を繋ぐように次から次へと、
リオン!アルテ!のコールが始まった。
そして二人が婚儀を終え、歓声に応えるかのように、、
城のバルコニーに上り民達の前に姿を現すリオンとアルテ。
その直後、人々の歓声は絶頂を極めた!
「ワー!」と沸きあがる歓声!
成人を迎えた二人の背丈はほとんど同じくらいで、
リオンの方が微かに高い。
この地の寿命は、男女、平均百歳。両性体は約百二十歳。
子供を過ぎて、身体と精神が成人となる時期が二十五歳だ。
二人は同い年で幼馴染である。
リオンはすらりとした背格好。
優しそうで涼しげな目をし、清潔感を漂わせる風情は、
いかにもまじめ風だ。
一方アルテは両性体特有の中世的な顔立ちで、
笑顔は人懐こく、皆を和ませる。
まだ女に変化していない体は細々とし、少年のようである。
歓喜の中でアルテの高揚した頬は、白い肌の色を際立たせ、
まっくろな瞳が純粋さを強調させていた。
リオンとアルテの耳端中央には、緑色地の結婚儀式としての、
銀色の平らなピアスが光る。
その輝きが今日はやけに眩しい。
二人の記憶にないくらいの頃からされていて、誰もが将来の
絆の象徴として見ていた。
そして心から祝う民たちは
「二人は我らが育てたんだ!」と酒を飲み交わし、
果ては踊りだし歓喜する。
そう、緑色地には区別というものがない。
王の子だからとか、平民の子だからとかの
差別がないのだ。
そもそも孤児だった幼いアルテが
城内へひょっこり現われたときに、現ルディア王は
甚くいとおしみ、両性体であることを幸いに
リオンとの将来を決めてしまった。
この偏見のない国の性質は、
祖先の遺伝子からの営みによるものだともいえるが、
王自ら率先して行っていることに、
緑色地の確立がある。
だから二人は民たちの中で、常に一緒だった。
わけ隔てのない緑色のすべては、両性体が住みやすく、
アルテはあたりまえのように、悲観なく明るく育ち、
リオンとはお互い兄弟のような感覚で、男と両性体の
異性意識などまるで無かった。
陽気で優しい家臣や民達は、冷静で賢いリオンと、
素直で純粋なアルテを自由奔放に育て、心から愛し
見守ってきたのだった。
広場はひとり程の隙間もないくらい、溢れる群衆の群れ。
沸き返る民たちの前でリオンとアルテは、
心躍らせ感激し手を振る。
歓声が響く中、二人は群衆を後にし、王が待つ広間に向かった。
途中、柱の横から今にも泣き出しそうな美しい女性が
二人をみつめている。
その女性はメテル(女)。
ためらいながら小さな声で、リオンの肩越しにささやくアルテ。
「メテルは・・・いいの?」
リオンはメテルの方を見ず、アルテを安心させるように
「メテルには、もう分かってもらえたから・・・」
と無表情にも見えるリオンの顔。
二人の気持ちを知っていたアルテは複雑だった。
メテルは二つ年上で、小さな頃から
一緒に遊んでいた仲間なのだけれど、何よりも、
リオンとメテルの間には、恋愛感情があることを知っていた。
けれど、あたり前のように将来を約束され、あたり前のように
今日の日があるアルテには、どうすることも出来なかったし、
アルテにとっても、リオンは特別な存在だったのである。
女特有の妖艶な美しさと香りを放つ。
そんな容姿を恨めしくもあり、憧れでもあるメテル。
ほんとうであれば、メテルは王室に縁のある家柄で、
アルテが存在しなければ、メテルとリオンは
当然のように、誰の反対もなく
結ばれていたはずだ。
広間に向かうアルテは、すっきりしない心を
メテルに伝えたいかのように
何度も後ろを振り返りながら、歩いていった。
広間では宴が始まっていて、ルディア王が口を開くと
宴はぴたりと止まった。
ルディア王の横にはリオンの弟、第二王子アロン(男)が
穏やかな顔で、微笑みを浮かべながら座っている。
その隣にはリオンとアロンの母親、后が冷ややかな面持ちで
一点をみつめ並んでいた。
ルディア王は二人に向かって天を仰ぐように叫んだ。
「この緑色地の人々のためにおまえ達の指名がある!
成婚を迎えた今、リオンの才能とアルテの遺伝子で、
この国を守のだ!」
「はい!」希望に溢れた二人の声は広間に響き渡った。
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