作品名:奇妙戦歴〜ブルース・コア〜
作者:光夜
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一体目の花瓶を倒した時シンのポケットからけたたましく携帯の着信音が鳴った。
「もしもし!?」
二体目を見据えながら携帯で話した。
『よおーそっちの調子はどうだ?』
声は孝太の物だった。シンは花瓶へ走りながら孝太と話した。
「こっちは花瓶と交戦中、何のようだ?」
孝太は悪びれた様子も無く話し始めた。
『そりゃー悪かったな、いや実はなさっき唯と会ったんだが・・・』
「唯と!うわっと!」
学校にいるはずの唯が何でここにと思った時花瓶が攻撃してきた。
『大丈夫か、それでな・・・』
「悪いが後にしてくれないか?」
鬱陶しそうにシンは孝太に言った。孝太は少し考えたような間をおき喋った。
『葵も来てるみたいだ』
「何だって!?」
攻撃を避け間合いを取ってシンは喋った、どう言う理由かは知らないが葵が来ている以上早く始末しようと電話を切った。
「あ!おい斑鳩?・・・ちぇ、切っちまった。あの様子だとすぐにけりがつくだろうな」
携帯をしまった孝太が一人呟いた。
「孝太、斑鳩君なんだって?」
内容が聞けていない唯は孝太に聞いた。孝太は面倒な所ははぶき言った。
「後で掛けなおすってさ」
嘘だという唯の視線を感じながら孝太は口笛を吹いた。二人は今繁華街への道を進んでいた。
シンは丁度最後の花瓶を倒し周りを見回して葵を探していた、足元には砂の山が形成されていたが気に止めず歩き出す。
シンが砂山に背を向けた時山のてっぺんが動いた。
「キィィ」
山から出てきたのは小さな石のような『コア』だった。石はシンの首を狙って突進するように飛び上がった骨を折るつもりだ、それに気づいていないシンはまだまわりを見ていた。
このままではシンの首が危ない、その時人ごみから声が響いてきた。
「シン君後ろ!」
声に気づいたシンは慌てて振り返った。石と目が合いシンは睨みつけた。
「キィィィィ!?」
石は驚いたが勢いは止まらずシン目掛けて飛ぶがガシッと捕まれジタバタしながら手足を動かした。
「なんだ、石か・・・」
『コア』と気づいているのかいないのかはともかくとしてシンは石を握りつぶした、つぶす時何か声が聞こえた気がしたが構わず声がしたほうを向くと手を振って葵が居場所を示した。
「やっほーシン君」
「やっぱり葵か、危険だから来るなっていったのに・・・」
仕方ないなといった表情で葵の所へ歩み寄った。
「危なかったねシン君」
「何が」
シンは話の意図が見えなかった、葵は石の事を言っているのだろうがシンはそれに気づいていないので話が噛み合わないようだ。
「何がって・・・いいか」
「だから何が?」
いまいち理解できていないシンとは逆に葵は笑っていた。
「まあいい、それより何で来た?」
「電車」
溜め息混じりに茶化す葵を見た、葵はニコニコと笑いながらシンを見ていた。シンは首を振りながらもう一度聞いた。
「そうじゃなくってだな、どうしてここに来たんだと聞いてるんだ」
またふざけた事を言うんじゃないかと思ったが帰ってきた答えにシンは呆然となる。
「心配だったから、シン君が」
「え?」
この答えにシンは少し微笑み「まあいいか」と言った。
話し終えた二人は辺りを見た。店や止めてあった車は破壊され怪我をしている人も見えた。それよりも周りの視線が二人に集中していた。
「なんか皆こっち見てるね・・」
不安気味に言う葵とは逆にシンは冷静に周りを見た。
「そうだな、大騒ぎの中心にいれば誰でも見るだろうな。大事にならない内に退散しよう」
「うん・・・」
二人がその場所から離れようとした時聞き慣れた声が聞こえた。
「早くしてよ!ここよここ!」
二人だけではなく回りの人たちもそちらを振り向いた。一人の女性がカメラに向かって喋っていた。大野 寛子とカメラマンの島田の二人だった。
「あ、大野さんのお母さん!」
「またか・・・」
呆れた様子でその光景を見ていた。寛子は二人に気づかずそのまま突撃リポートを始めた。
『皆さん、ここは広柿町の繁華街の中心に程近い大通りです。立った今この場所で大きな爆発があり辺り一面に被害が及んでいます。』
その後もリポートは続き現場へ足を踏み入れた時寛子が二人に気づいた。
「あ!」
「しまった!」
逃げる機会を逃した二人は寛子に迫られた。
『テレビの前の皆さん、この子達は私の知り合いで田町高校の生徒さんです。事件を目撃しているかもしれないので聞いてみましょう』
そう言ってマイクを葵に向け尋ねた。
『事件を目撃されましたか?』
「え?わ、私!?えっと・・・その・・・」
慌てる葵を見てシンは「何やってんだ」と言って寛子を見た。寛子はあえてリポーターをこなしながら聞いた。
『斑鳩君ですね?どうしてこのような事に?』
「またあんたか、前回好きなようにしろとは言ったが・・・」
と、シンはチラリとカメラを見て指差した。
「前回の事はは放送されなかったが今日は生放送だろ、責任取れんのかあんたは?」
インタビューとは関係ない返答に寛子や島田はうろたえたがここで引き下がるわけが無かった。負けじとシンへの質問を続ける。
『一体これは誰がやったんですか?』
「答えられないね」
自分の答えにハッとなった、答えられないとは言え質問に答えてしまったのには変わりないこうなると次の質問が来る。
『答えられない?どう言うことですか、何か知っているんですか?』
(クソ、ミスったな・・・)
後悔しながらシンはマイクを見つめ決心した。
「あ、何を・・・」
寛子からマイクを取り上げビルの上へと放り投げた、呆然とマイクの行き先を見ていた寛子はシンを睨んだ。
「何てことするのよ、音が取れ無いじゃないの!」
この剣幕に一瞬引いたが負けるもんかとシンも怒鳴った。
「いいか!これ以上付きまとうな!」
「要所要所にいるのが悪いんでしょう、どこか行くならあなたが行きなさいよ。こうなら前回のテープ売るんじゃなかった」
捜査も忘れシンは意地になりながら怒鳴り合いを始めた、音が取れないとわかった以上寛子も不満を怒鳴り散らこと十分突然爆発音が響いた。
ズガァァァァァァァン!!
「な、何!?また爆発!?」
寛子は驚いて座り込んでしまった、爆破が収まると寛子はシンを見上げた。
と同時に『コアの欠片』が光った。
「・・・・・」
「シン・・・君?」
黙っているシンに葵は声を掛けた、シンはジッと道の先を見ていると思ったら突然走り出した。
「シン君!?」
「ここに居ろ!」
それだけ言って道の彼方へと消えていった。立ち上がった寛子は葵に尋ねた。
「あなた達一体何をしているの」
葵は寛子の顔を見た。
「世直し!・・・・かな?」
そう言って葵もシンの後を追いかけた。寛子はふっと笑いポケットから予備のマイクを取り出した。
爆発の震源地ではいくつもの店や人が被害にあっていた。その中心には蜘蛛のような格好をした大きな怪物――――――『コア』が咆哮していた。
「ジャァァァァァァァ!」
逃げ惑う人を追いかけ大きく尖った足で踏み潰しては喜んでいた。
「た、助けてくれー!」
逃げる途中転んで動けなくなった一人の会社員が大蜘蛛を前に震えていた。
「ジャァァァァァァ!」
喉を鳴らし足を振り上げた。
「ひぃぃぃぃぃ!」
頭に腕を上げ縮こまるが振り上げた足はいつまで経っても下りて来なかった。
「・・・・・?」
会社員は恐る恐る目を開けると足が一本もぎ散られている大蜘蛛が見えた。叫ぶ事も無く大蜘蛛は自分の足を切り取った張本人に振り返った。
「バカ騒ぎもそこまでだな」
そこには孝太がいた、足をもぎ取ったのは『斑匡』から飛び出た三日月だった。
会社員は魂が抜けたように笑いながら大蜘蛛が立ち去るのを見ていた。
「ありゃ立ち直るのに時間がかかるな」
会社員を見て孝太は言った。
「いいから孝太は戦ってよ!」
角の方で唯が孝太に言った、「へいへい」と返事をして大蜘蛛を見た。
「一人じゃ無理かな・・・・」
改めてみると結構骨が折れそうな相手だと解る、だがめげずに大蜘蛛を睨みつける。
「二人なら倒せるんだろう?」
不意に大蜘蛛の後ろから声がした、孝太と大蜘蛛が後ろを見るとシンが立っていた。
「斑鳩、いたのか?」
「そんなことはいいから行くぞ」
「あいよっ」
同時に無視され怒った大蜘蛛は前足と後ろ足で両者を攻撃した。二人は後方へ避け孝太が飛び掛った。
「ジャァァァァァァァ!!」
孝太が攻撃する前に大蜘蛛は悲鳴を上げた。
「へへへ、二人いるんだよバカ」
孝太は得意そうに笑う、孝太は囮でシンが後ろから攻撃して足を切り落としたのだ。大蜘蛛はキレたように暴れだし二人を攻撃した。
それを避けながらチャンスを待っていると後ろから葵の声が聞こえた。
「シン君!」
「葵!?え?」
よく見ると更に後ろから寛子とカメラマンの島田が追いかけてきていた。寛子はお構いなしリポートを始めた。
『見て下さい、爆発の原因はこの巨大な蜘蛛が起したもののようです。今先ほどの少年とその友達が交戦をしています、一体彼等は何者なんでしょう?情報によりますと『世直し』とのことですが詳細は解っていません。スタジオさーん?聞こえますか?』
「勝手にしろ」
寛子の強引さに呆れたが今は構っている暇は無い大蜘蛛に向き直り飛び込んだ。
「はあっ!」
また一本蜘蛛の足が取れた、しかしこのままではラチがあかないと思った孝太がシンを呼んだ。
「斑鳩!伏せろ」
「は?あ!」
見ると孝太は両手で刀を構えた、『あれ』をやると悟ったシンは葵達に叫んだ。
「三人とも伏せろ!!」
「え?」
何かは解らないが葵は素直に従い伏せた。
「え?何、何なの!?」
状況が理解できていない寛子と島田が伏せる前に孝太は『斑匡』を振った。一瞬公園にいた少年の言葉が甦った。
『殺したいの・・・』
「そんなこと知るかよ!!」
『斑匡』を一振りすると運悪く緑色の三日月が出た、貫通形の三日月は蜘蛛を突き抜けた後シンの頭を通り過ぎた。シンが後ろを向くと寛子と島田はまだ立っていた。
「バカ!二人とも伏せろ!!」
「早く!」
葵に引っ張られ寛子は地面に伏せた。
「え?うわっ!」
島田はカメラを投げ出し伏せた、三日月はカメラにぶつかり消えた。ぶつかったカメラはバチバチと音を立てて二つに分かれた。
大蜘蛛は横に体の上の部分がスライドし砂となった、砂の山には茶色い『コア』が落ちていた。
「よし」
シンは刀を突き立てた、『コア』は刀に吸い込まれ刃は茶色く変化した。
角にいた唯が孝太にVサインをした、孝太もVサインを送り笑った。シンは寛子達に近づいた。
「葵大丈夫か」
最初に葵の無事を確認した。
「うん大丈夫だよ、シン君は」
パンパンと服の砂を叩いた。
「俺も大丈夫、それより・・・」
シンは寛子を見た、寛子は壊れたカメラに目をやった。
「あーあ、カメラ壊れちゃったじゃない、高いのよこれ」
「なら帰れ、ここにいても危険なだけだ」
「予備ならあるわ、それよりあれは何だったの?」
寛子は砂山を指差して言った。答えに迷っていると葵が横から尋ねた。
「それよりもあの人大丈夫なんですか?」
「え?」
寛子が下を見ると島田がノビていた。
「あ・・あが・・」
痙攣をしながらノビている島田を見て寛子は溜息をついた。
「ともかく、これ以上・・・・」
シンは言葉の先を言う事が出来なかった、突然『コアの欠片』が強い光を放ったのだ。
「斑鳩・・・」
孝太はもしやと思いシンの顔を見た。葵や唯も同じようにシンの顔を見た。
「みたいだな・・・・大野さん」
シンはキッと寛子の顔を見た。
「な、何よ?」
寛子は雰囲気の変わったシンに一瞬驚いた表情を見せた。
「絶対に関わるな」
それだけ言うとすぐさま孝太と来た道の逆に走り出した。
「私たちも行こう唯!」
「うん!」
葵と唯も二人の後を追って走り出した。
「関わるなって無理に決まってるでしょ」
一人で文句をいうと未だにノビている島田を見た。
「ちょっと島田さん起きて!行くわよ!」
「う〜ん・・・」
しばらく島田は起きる気配を見せなかった。
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