作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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 「それじゃあ、私はここで」
 「うん、また明日ね」
 帰り道の途中、僕は右に、古西さんは左に分かれた。この街は妙にエリア分けがきっちりしているみたいで、マンション群と民家群とがそれなりに区別されている。
 もちろん、完全ではなく、マンションの中に民家はいくつかある。僕の住んでいるマンションの近くにも、民家は見える。個人宅って、夢だよね。とりあえず完全な私有地だし、何でも出来るものね。
 「ただいま」
 「あら明ちゃんおかえりなさい。あら、どうしたの、嬉しそうな顔して」
 「え、そうですか?」
 「そうよぉ、とっても楽しそうな顔してるわ。なにがったのかしら?」
 入り口には管理人さん。いつもの会話に含まれることのない会話に、僕は少しだけ違和感があったけれど、管理人さんの言う『何か』のおかげで、それも気にならなかった。
 「友達と、一緒に帰ったからですよ、たぶん」
 それじゃあ、と僕はお辞儀をしてエレベーターに向かった。その後姿を、管理人さんは見ていたと思う。
 「いつも我関せずだった明ちゃんが、友達と帰ってきたなんて・・・・ようやく、っていうのかしらねぇ」
 嬉しそうな顔で、管理人は部屋へと戻っていった。
 部屋について、鞄を置くと、その足で着替えとタオルを手に浴室へと向かった。日課というか、習慣というか、僕は家に戻ると先にお風呂に入る。外から持ってきた不純物を、精神的に洗い流すという感覚も知れない。昔からの習慣に理由をつけるなら、こういう感じだとおもうけど、真意は今となっては判らない。
 熱いお湯は、そんなに好かないけれど、頭の中で何かが行き詰った時は気にせずに熱いお湯をかぶる。そうすることで、何かに気づけるかもしれないから。でも、今日は別に熱いお湯をかぶる必要もない、いつものように気持ちのいいあたたかい雨をかぶって、僕は一度リフレッシュした。
 「ふー、リセットもかけたし、どうしようかな」
 特に、するべきこともない。脱いだ制服を片付けて、冷蔵庫から飲み物を取り出す。といっても、カフェオレか水しかないんだけど。
 「新しい本、買おうかな」
 時間つぶしの本も、もうあと一冊しか読むものがない。新しいものを買いたいけれど、本棚はこれでいっぱいだし、一部処分しないと無理な気がする。
 「さて、と。さっきの今であれだけど、書き込みのほうを調べてみようかな」
 今、僕に出来ることは最後の手がかりを失わないこと。ということで、パソコンを起動した。インターネットに繋いで、お気に入りに登録したさっきのサイトにアクセスした。
 「えーと、掲示板は・・・・」
 マウスを操作して画面を開く。と、予想外なことにいくつかの書き込みが既にあった。おお、ちょっとすごいと思ってしまう自分がいた。あれ、いくつか?

 Name ドリア
 はじめましてキリアさん。わたしもロクスミ大好きなんです!これからよろしくお願いします。

 Name 栗栖
 どーもー、キリアさん。自分はロクスミ結成のときからお世話になっているものです。音楽の世界に境界はありません、彼らの音楽を聴いていると元気になりますよ、これからよろしくです。

 と、まあ一部抜粋でこのくらいなんだけど・・・・僕の書き込みどこに行ったのかな?スクロースして下に向かわせる。と、いくつかなの書き込みなんていっている場合ではない。あれから一時間も経っていないのに、すでに書き込みが30件はある。恐るべし、ファンの情熱。
 「あ、僕のだ」
 だいぶ下げて、ようやく自分の書いたものが出てきた。ならば、と僕はコミュニケーションをどうとりつつ、目的の人物を探した。と、一際随分と長い文章を書いている人がいた。例の、スミスキーという人だ。

 Name スミスキー
 初めましてキリアさん。結構前にここに参加したスミスキーというものです。はじめは自分も、インディーズバンドには興味なかったんですけれど、友達から貸されて聞いてみたら何じゃこりゃー!と衝撃を受けました。それ以来、インディーズもメジャーも関係ないと思いました。それを教えてくれた『ロック&スミス』の大ファンになりました。キリアさん、これからどうぞ、よろしくお願いします。

 「うーん、書いたことに返事をしてくれるっていうのは、嬉しいけれど。それが文字だけって言うのは、なにか釈然としないんだよねぇ」
 感情移入は皆無。僕は僕なりの方法で返事をしようと思った。ちょうど誰よりも長めに書いてあるので、返事はしやすかった。

 Name キリア
 早速の返事、ありがとうございます。ロック&スミスについては、まだまだ初心者ですが、これからも勉強して以降と思います。ちなみに、皆さんはどの曲が好きですか?お勧めの曲なんかがあれば教えてください。よろしくお願いします。

 下手に出ないハッキリした文章で書き込むことで、それなりにコミュニケーションが取れると思う。文字だけだと、無駄に便利だからね。ポイントとしては『行こう』と『以降』をわざと誤字にすることで向こうに自分が緊張していると思わせる。そうすることで、一方的に見える文章でも、それなりに遠慮的な部分を見せることが出来る、と思う。
 「一時間位したら、また見ようかな」
 パソコンを閉じて、テレビに向かった。昨日はテレビを見なかったから世の情勢がよく解らない。見たところでどうこうするわけではないけれど、それでもニュースは見たいとおもう。
 「それに、あの遺骨盗難事件に進展があったかもしれないし」
 僕はテレビのリモコンを持って電源をつけた。番組はいつも同じ、初めからこのテレビはニュースしか写らないように設定してあるしね。
 しかし、テレビで報道されている内容は、どこもかしこも同じような内容ばかりだった。最近の政治から始まって、今日や昨日おきた事件事故の経過や新規報道。そして、その中にはあの遺骨盗難事件については全く報道されていなかった。遺骨というものは、確かにそれ自体では恐怖の対象かもしれないけれど、法律から見れば結局は所有物の盗難に過ぎないのかもしれない。
 別に誰かが死んだわけではない。確かに悲しい思いをした人間はいるかもしれないけれど、法律は人間の感情では動かない。窃盗されたものは僅かな人員のみで調査している。それは、財布とか、自転車とか、一般の所有物と同じように混ぜられた状態でのこと。
 捜査自体は、もう停まっている可能性もある。遺骨なんて、ばら撒かれれば見つかりようもない。そんな不確定要素を探すために、警察は頻繁に動くことは出来ないのだから。
 だから、横山さんの悲しみを、ダイレクトに何とかでいるのは、僕と光夜だけしかいないと言える。ここで、くじけるわけには行かない。
 「あ、この猫かわいい」
 と、最後に出てきたペットコーナーで、今日の猫を特集していた。昼寝姿が可愛かった。

 続いてのニュースです。香港で拘留中の殺人の疑いをかけられている男性が、面会に来ていた女性と留置所内で挙式をあげました。男性は八年前に香港で起こった殺人事件と関係しているとのことで、その疑いをかけられていますが、現在無実を主張。警察もそれを調べています。そんな男性の無実を証明するために協力していた支援団体の女性は、頻繁に男性と面会を行い。その最中に恋仲になったとの事です。
 無実を晴らしたときに結婚と予定しておりましたが、互いにそれは待てないと、留置所内での結婚を行いました。折の中で、二人とも最高の笑顔を見せてくれました。

 「・・・・・・」
 外国の恋愛の話だった。人を好きになるのに理由はない、長く一緒にいれば好意を持つのは自然な流れだと思う。相手がどんな人間かと言うのは、好きになった人間同士に意味はないんだと思う。好きとか、嫌いとか、意味や使用する場面は判るけど。それを感じたことはない。
 でも、そういうのは自覚していない人間が多いと、どこかで聞いた。人間嫌いの僕が、果たしてそれに当てはまるか、甚だ疑問である。でも、自分でも知らないうちに、人間は変わるという。それを考えさせられたのが、さっきの古西さんの言葉だった。

 明は、八神君のことをどう思っているの?

 もう一度、その問いかけに考えてみる。でも、思考しても、それは言葉に出来るものなのだろうか。だって、それは感情であり、感性であり、第六感だもの・・・・
 僕は光夜を、はじめは人数合わせの部員としか見ていなかったと思う。初めて教室であったとき、そのときからみんなは光夜の噂を知っていたらしい。らしいということは、事実僕は光夜のことなど微塵も知らなかったと言うことだ。だって、他人に興味なかったし。
 だから、同好会の初日、恐ろしいほどにコミュニケーションは希薄だったとおもう。だって、本当に互いに作業しているだけで、言葉なんてなかったんだから。
確かに、光夜と僕は第一印象で似ていると感じた。でも、よく考えれば似ているだけで同じではないのだ、僕は『希薄』、光夜は『欠落』だから。
でも、人間はちょっとしたきっかけで様変わりすると、そのときに理解したんだった。出会ってから、一ヶ月くらいで日常会話を話せるようになったのは、僕の人生の新記録と言えた。
それで、十分だと思ってた。普通に会話をすればよかったんだから。面倒ごとを持ってくるのと、それに巻き込まれるという形にはなったけれど、人間はそれじゃあ止まらないみたいだね。
「まあ、確かに・・・・助けてくれたときの光夜は、かっこよかったけど」
 不意に、先ほどの情景が浮かんできた。成り行きとは言え、僕を助けてくれた光夜。成り行きゆえに、いつもの彼過ぎて、安心しきったかもしれない。
 「・・・・・」
 人に助けられる経験はなかった。いつも自分で何とかしていた。だから、じゃないけれど、でも、あのときの光夜に・・・・見とれていたかもしれない。
 「・・・・・あぅ」
 そう思うと、よく会話すると言うだけの間柄だと思っていた僕の考えが、違ってくる。もしかすると、僕は光夜が―――――
 「好き、なのかな・・・・」
 喉の辺りに違和感が生まれた。熱帯びたような、何かが僕の心臓を詰まらせた。どう、なんだろう。僕は本当に光夜が好きなのかな?普通に会話する仲までなら、それなりに順を追って考えられた。でも、恋愛感情は、僕は今までに感じたことがないから、これをそうだと判断できない。
 「光夜に会えば、わかるのかな」
 しばらく間、僕は喉の辺りが気になって、何にも手が付けられなかった。


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