作品名:私説 お夏清十郎
作者:ゲン ヒデ
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「で、伝えたくはないが、……清十郎は、打ち首と、きまった」
「ええー、」おもわず、九左衛門は起きようとした。背中が疼いたのか、また臥して、嘆いた、
「わたしめが、殺されたならまだしも、軽い傷を負わされただけで、……それも町人の話ですのに……不憫な」九左衛門は泣き出す。

「主従関係では、そうする掟になっている。わしが、大殿に訴えたら、あるいは命だけでも助かるかもしれぬが、あいにく江戸表じゃ」
「では、今、ここ、姫路に、おられる若君様に!助命のお願いをしてくださいませ!」
「若君に申し上げるとな、ご同情なされ、家老らに何とかならぬかと、仰せになられたが……刑を軽くする采配は、城主だけしかできませぬ、と返答され、ため息をつかれた」
           
「ああ、お夏に、どう伝えたらいいものか……」
「お夏は、どうしている?」
「ただでさえ、清十郎との仲を裂かれ、落ち込んでいましたのに、この騒ぎで、奥の座敷に閉じこもったままで、井戸へ出て水を飲んだり、厠へいくときしか、外へでませんが……」
「ならば、刑が終わって、しばらくしてから、話すのがよいかなあ。心の傷が、もっと深くなろうが……、家の者には、お夏の耳にはいらぬよう、黙っているようにしなされ」
「そうしましょうか……(はっとして)札の辻!あそこの高札に、清十郎の処刑のこと、載るのでは!」
「あんな間近だと! ああー……、万一のことがないよう、お夏を、店の外へは、絶対出すでないぞ、よいな」

 弥右衛門が帰った後、九左衛門は家の者全員を、臥床に呼び、伝える、
「お夏に、清十郎の処刑の話、してはならぬ。外にも、出さぬようにな。それからご近所にも、店の近くでは、その話しをせぬよう、頼んでおくれ」言いおえ、九左衛門は、どっと疲れを感じた。

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