作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
← 前の回  次の回 → ■ 目次
 光夜と別れて、古西さんと二人になる。流れでこうなったけれど、何の話があるんだろう?
 「無愛想にみえたけど、案外色々と考えてるみたいね」
 「え、なにが?」
 「八神君よ。初対面なのに、あそこまで意思疎通のしやすそうな人って見たことないわ。本当、あなたといいコンビよ」
 それは、誉め言葉なのだろうか?よくわからなかった。ただ、光夜と仲がいいと思われているのは、嬉しかった。
 「それで、あのキーホルダー、何か解ったの?」
 「あ、うん、おかげさまでね。知らないバンドが作った商品だって」
 「ふーん」
 興味なさそうな声で返してきた。あれ、そうじゃなくて・・・
 「えっと、それで何か話があるんだっけ?」
 「え?ああ、それ。ないわよ、そんなの、友達と一緒に帰りたいだけ。それだけよ」
 いきましょ、と小西さんは肩を叩いて歩き出した。僕もその後に並んで歩き出す。
 「それにしても、噂の八神君も、そんなに恐そうには見えなかったわね」
 「光夜?別に恐くはないよ、ただ人に遠慮してるだけで」
 「でも、三年生に喧嘩売ってるじゃないの」
 「あれは向こうから勝手にけしかけて来るんだよ。今日だって、いつもより酷かったんだから」
 階段を下りながら、先ほどの一件を話し始めた。そう、今日のはいつものより随分と手間がかかっていた。でも、それだけだったよね。
 「いつもより酷いって、何されたのよ。っていうか、あなたも巻き込まれたの?」
 「そだよ。行き成り眠らされて、起きたら部活棟の知らない部屋に監禁されて、犯されそうになったんだから」
 「おか―――――っ、それってれっきとした犯罪じゃないのよ。随分と堕ちた事してきたのね」
 「うん、でもちゃんと光夜が助けてくれたよ。まあ、怪我の功名みたいな感じだったけれどね」
 「そう、それで上機嫌なのね」
 その言葉に、僕は足を止めた。上機嫌?僕が?なんで?疑問が浮かんできた。確かに助ける、助けられる関係じゃない。でも、光夜が僕を蔑ろにしたことはないから、いつも通りだと思っていた。でも、古西さんは、僕が上機嫌に見えたらしい。
 「どうしたのよ立ち止まって、へんなこと言った、私」
 「う、ううん。ただ、どうなのかなって思って」
 「どうって、なにがよ」
 「僕が上機嫌に見えるなら、たぶんそうなんだと思う。でも、なんでそんな風になっているのかなって。今まで、誰かに上機嫌だねって言われたことがないから」
 僕は困った顔で思考する。確かに僕は交流する相手がいなかった。でも体調が悪かったりしたときは、それでも誰かが声をかけてくれたこともある。だから、誰かに上機嫌だって言われたのは初めてだった。
 そんな僕を見て、逆に苦笑いでやってくる小西さんがいた。隣まで来るとそっと頭に手を置いた。
 「ばかね、人に助けられて嫌な気分になる人はいないわよ。助けてくれた人が、身近な人ならなおさらね。その感情は、あって当たり前のものよ。
本当、面白い子と友達になったと思うわ。もしかすると、ずっと居ても飽きないかもしれないわね」
「そ、そうかな・・・・。でも、光夜にはそれなりに助けてもらっているし、そこまで気分が変わるって言うのは・・・・」
「それは、あれよ。身の危険を助けてくれたから、いつもよりもちょっとだけ嬉しい度合いが強かっただけよ」
 そうなのだろうか、僕にはよく解らなかった。でも、僕よりも人間としての中身がある彼女が言うのだから、そうなのだろう。
 「・・・・そっくりね」
 「え?」
 ふいに、優しく頭を撫でられた。なんだろう、なんだか少し寂しそうな顔をしている気がした。彼女らしくないというよりも、彼女には似合わない顔だった。
 「何かあったの?」
 「『何か』は、あったわよ。それもだいぶ昔ね。そうねぇ・・・・私がさ、昔はとんでもない根暗だったって言って、あなたは信じる」
 「小西さんが?想像は出来るけど、実現は出来ないよ。古西さんは古西さんだよ」
 「そういうと思ったわ。そうよねぇ、想像し難いわよねぇ。私ね、昔はあなたみたいに周囲から省かれていたのよ。私が天邪鬼だったって言うのもあったんだけど、比較的人が嫌いだったって言うのが、大元かな」
 「人間嫌い・・・・僕と似ているね」
 「あら、あなたもそうじゃないの?」
 「違うよ、僕は人間を信用していないだけ。嫌いなんじゃないよ」
 そう、とそっと手を離すと、古西さんは話を続けた。
 「今は、人との付き合い方も学んだし、こうしていられるけど。たぶんあなたに不快を覚えたのはそれが原因」
 「昔の自分を見ているみたいだった?」
 「・・・・鋭いのね。そうね、そういうこと。だから、腹立たしいのもあったけれど、それを変えてあげたいなんて思ったのね。いつの間にか、こうして一緒に帰っているわ」
 「経緯は、本当はどうでもいいよ。僕は今の小西さんしか知らない。昔の古西さんはもういないんなら、気にすることもないよ」
 彼女の手をとって、僕は僕なりの感想を言う。彼女は昔、僕のように人を避けていたらしい。でも、今は友達が沢山いる。なら、それでいいじゃないか。過去は自分だけが知っていればいいんだから。
 「それにしても、あなたたち二人って、どういう関係なの?」
 「ん?事件を受ける側と巻き込まれる側だよ。光夜は、本来は無関係だからね」
 「へぇ、そうなの、てっきり付き合ってると思ってたわ」
 「・・・・・・・・はい?」
 「あら、首をかしげることないじゃない。四六時中、いつでも顔を合わせているところを見たら、誰だってそう思うわよ。だから、今日の三年の先輩たちも、あなたを狙ったんじゃないのかしら」
 「え、いや、そういう意味じゃ・・・・」
 ないと思う、と僕は僅かに言いよどむ。確かに、周囲の目から見ればそういう見解もあるのかもしれない。現に、それを冷やかされた挙句に、光夜が三年生と喧嘩するということが一度だけあった。
あの時は「根拠のない無駄口ほど下らない」と、光夜は言っていた。たぶん、嘘ほど自分を痛めつけるものはないと、三年生へのあてつけだったと思うのだけど・・・・
「そういう意味も、どういう意味も、どうでもいいけどね。あっちの気持ちはどうでもいいわ。ねえ明―――――で、いいわよね、友達だし。で、明は、八神君の事をどう思っているの?」
「どうって・・・・」
どう、なんだろう。出会った頃は、僕は同好会を運営するために人を探していただけだから、丁度人数が揃ったくらいにしか思っていなかったと思う。
けれど、大塚君の事件を解決した後からは、よく話すようになった。だって、思っていた人間と違っていたから。
でも、そのときの僕は、今の僕じゃない。だって、さっき、僕の身が危険になったとき、当たり前のように現れた光夜を、カッコイイと、思っていたと思う。
「今まで会った人より、気になるのが光夜だと思う・・・・」
「合格、それで十分よ。別に無理矢理認めろって言っているわけじゃないわ。ただ、本当になんでもないなら、今のうちにハッキリしておいたほうがいいと思って。そうじゃないと、せっかくの友達が、わけの解らない感情で困ることになるもの。そういうの、嫌いなのよ。
友達だもの、ずっと笑っててほしいわよ」
それは、どことなく自分に言っているように思えた。彼女にも、僕の知らない深い何かがあったのだろう。それは、僕なんかが触れていいものではない。ただ、その言葉は真実、僕は聞き流すのではなく、反芻するように心の中にその言葉を刻み込んだ。ずっと笑っていて欲しい、その言葉を。


← 前の回  次の回 → ■ 目次
Novel Collectionsトップページ