作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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「や、八神―――――」
「なんで、こんなときに。いや、手紙は読んだのかよ!?」
「あ?手紙だ?なんだそりゃ?」
光夜は訳がわからないという顔で、四人、というよりも囲まれている僕に視線を移した。
「妙に聞きなれた声が叫んでると思ってきて見れば・・・・・明、何してんだお前?」
「・・・・拉致監禁されて、これから事に及ばれそうになってるとこ」
その言葉を聞いて、光夜は頭をかいて、あくびをひとつ。
「また、面倒ごと引き込みやがったな・・・・」
そういうと、さも面倒くさそうな顔をした。ああ、なんだかいつもの光栄すぎてさっきまでの危機感があっという間に消えてしまった。やっぱり光夜はスゴイなぁ。
「はっ、最初の計画とずれたが、まあいい。おい八神、こっちには人質がいる、返して欲しけりゃ黙って言う事聞きな」
「・・・・・・」
このときを待っていたとばかりに、一人が僕を盾のように扱って光夜に言って聞かせる。けれど、光夜の沈黙は困惑ではなく、ただ『何してんだこいつら』程度の感じに見えた。ああ、さすが光夜、何の妥協もなく、なんの感慨もなく、状況は単純に処理している。
「明、部室にいなかったのはこれが原因か?キーホルダーのことはどうした?」
「え?ああ、まだ調べてるところだよ。それと、そうだね、拉致監禁のせいで出鼻をくじかれちゃった」
僕と光夜は状況も省みずに会話する。自分が無視されたことに一人が苛立って、光夜を見た後僕を見た。
「なに無視かましてんだよてめえら!今の状況わか―――――ぶびゃっ!?」
と、喋りざま光夜に向き直った一人が高速で床に叩き伏せられた。光夜から目を放すとこうなる。振り返ったとき、もう光夜は目の前にいたのだ。そして顔面から拳をめり込ませて床にたたき伏せてしまった。その間三秒弱。
後三人。ちなみに、ナイフは今気絶した人間が持っていたから、武器はない。
「とりあえず、こいつらは消す。話はそのあとだ」
「おい、ふざけんじゃ痛い痛い痛い痛たたたたたたたた・・・・っ!?」
一人が光夜に掴みかかろうとしたとき、その腕を取って逆さに曲げた。間接を逆にされたことで力が入らず、悲鳴を上げている。そのときの光夜の目は、酷く冷酷だった。邪魔だとばかりに、光夜は嘆息する。
「折る」
「ま、待ってくれ、そ、それだけは―――――ぐえぁっ!」
ぐるんと、手首を回してまた一人、倒す。その下がった頭に垂直に踵を落として昏倒させた。折ってはいない、捻挫だとは思うけど。
残り二人。
「―――――の野郎っ!?」
残りの二人、一人が声を上げ、もう一人が続くように動いた。二人がかりなら勝てると思っているらしい。
「のろい」
一人が突き出した拳を交わして、後方から予備動作で攻撃態勢を構えていた方の顔面に拳を突き出す。そこで動きを止めて、最初に避けた方の後ろ首に手刀をお見舞いした。
五十秒。四人倒すのに掛かった時間だった。
「学習しない連中だな」
「あ、光夜・・・・」
当たり前のように、僕を縛っていた縄を解いてくれた。
「相変わらず、面倒ごとを持ってくるな」
「・・・・ごめん」
「とはいえ、半分は俺の所為だ。まさか、ここまで堕ちた行動をとるなんて、思ってもなかったな」
どうしたものか、光夜はそう呟いて黙った。あれ、もしかして珍しく悩んでるの?
「もしかして、責任感じてる?」
「・・・・いくら俺でも、そこまで不干渉じゃない。自分が起こした事に何も思えないほど、人間は辞めていない」
「でも、僕は困ってないよ」
それは本心からの言葉。光夜、妙に責任感じて抱え込むことがあるから、はっきりしておかないと後まで引きずるんだよねぇ。
「・・・・先手を打つのは、いつものことだが、俺がいるとこうなる」
「いいんだよ、僕は迷惑じゃない。それに、光夜は居場所が必要なんでしょ?僕のところを辞めて、別の所に行っても絶対にまた辞めるよ。幽霊部員になるくらいなら、光夜は僕の所を辞める必要はないよ」
「・・・・お前の精神が、逞しくて助かるな」
「一度決めたことを覆すのは、僕も光夜も不本意でしょ。それだけだよ」
そう、それだけのことなのだ。今はね。これからは知らない、光夜と一緒にいるとよく解らないけど退屈はしない。だから、これからどうなるかは知らない。
「戻るぞ、こいつらが大声だしまくった所為で、誰かが来てもおかしくはない。それに、ここは前から無断での出入りがあったところだ。いい加減に教師どももここの管理に出てくるだろうからな。その前に―――――あ?」
と、そこで光夜は床に視線を向けた。そのまま倒れた一人のところまで行くと、何かを拾い上げる。
「明、なくすところだったぞ」
そう言って渡してきたのはあのキーホルダーの飾り、ケツアルコアトルの飾りだった。でも、僕は首をかしげた。だって、その飾りは落としてなんていない。その証拠に、僕は内ポケットから、それを取り出した。
「僕、持ってるよ」
「・・・・・あ?」
僕が取り出したのは、それは確かに僕らが拾った物だった。裏側にもちゃんとあの番号がある。じゃあ、これは?
「・・・・・」
「・・・・・」
僕は光夜に目配せする。それを受け取るや否や、光夜はそのキーホルダーの持ち主であろう一人を掴みあげると、声をかけた。
「おい、話がある」
「うぅ・・・・い、痛てぇ・・・・」
呻く先輩の一人、痛がりながらも悔しそうに光夜の顔を見ていた。けれどそんな一般感情に紺屋は興味なく、ただ必要なことだけを聞いた。
「このキーホルダーはあんたのか?」
「・・・・・ん、だよ、いきなり・・・・痛っつぅ〜・・・・」
「答えろ、もしあんたのなら、このキーホルダーは何なんだ。どこの物だ」
「い、インディーズバンドの、オリジナルグッズだ。数量限定の、奴だ。それがどうしたんだよ」
「そのバンドの名前は」
質問には答えない、光夜はただ聞くだけだ。負けた者に口答えは出来ず答えないなら、痛みで返す。非効率的な、光夜のやり方だった。
「ろ、ロック&スミスって、バンドだ・・・・・」
そこまで聞くと、光夜は丁寧に先輩を横たえた。必要な情報はこれで搾り出したと、そういうことらしかった。
「ロック&スミス・・・・知らないね。早速調べるよ」
「ああ、そうしてくれ。と言っても、今は無理かもな、機械もない」
「そこは心配要らないよ。持ってきてるから、パソコン」
用意のいい奴だ、光夜はそういうと小さく笑った。同時に、廊下から誰かやってくる音が聞こえてきた。たぶん先生だね、僕らはアイコンタクトをとると別な扉から逃げだした。
この日から、あの教室は使用禁止になるのだけど、それはまた別な話ということで。
「こら、何をしているかお前たちっ!」
あとから、先生の起こった声が聞こえた来たときには、僕らは部活棟から姿を消した後だった。
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