作品名:算盤小次郎の恋
作者:ゲン ヒデ
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 やがて八重が、泣き出す。小次郎が近寄り、
「八重姉さん、なぜ泣くの」心配する。
 伝左衛門、舌打ちをし、
「小次郎、八重は、お前と夫婦になれるから、泣いているのだ。うれし涙だと分からんのか。愚か者!」大声を出した。
 聞いた小次郎、驚き、泣いている八重を見て、泣き出した。

「やれやれ、二人仲良く、うれし涙か。……武三郎、諦めてくれるか」
「人の恋路に邪魔する野暮は、止めます」 二人をほほえましく見て、武三郎は答えた。

「うん、よく分かってくれた。……伝左衛門、小次郎が婿になったら、しばらくは、城下の商人との綿布専売の協力の話し合いに、立ち会わせる。それが成功すれば、江戸に遣り、綿布の販売の下調べや、江戸商人との関係作りをさせたいが」
「それは、ありがたいことで」
「だが、何か頼りなさそうだから、八重を守り役として付けたいが、……なんなら、お前も守り役として、江戸へ付いて行くか」
「ありがたい、ご配慮ですが、わたしめは、ここに残ります。小次郎を叱りまくると、八重が恨みましょう」父親は涙ぐんでいる。
「お前も、うれし涙か。わしも、うれし涙を流したい気分だ。やっと、藩を救える光明が見えた」見れば、この屋敷から見える天守閣は、初冬の夕日に照らされていた。
 

 家老が、ふと目を戻すと、いつの間にか、八重は、泣いている小次郎を抱きしめている。
 殺人事件で怯えていた小次郎をあやしている時、(この子を一生守らねば)の一途な八重の思いが、今、現実になりかけていた。
             
             ー終ー

(あとがき)大橋家と安藤家は、この時代の城絵地図にあった隣同士の実在の藩士邸ですが、物語の実感を出すため、設定し利用しましたが、実際のモデルではありません。



















 

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