作品名:RED EYES ACADEMY U 脱走
作者:炎空&銀月火
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アカデミーの戦闘部専用寮の一室で、潮沢凛は飛び起きた。全力疾走をした後のように心臓が激しく鳴り響いている。アカデミー支給のTシャツも汗でびしょびしょだ。
まだ収まらない荒い息をしながら時計を確認する。午前六時三十分。ちょうど起床の時間だ。あたりはまだ薄暗いが、すぐに寮の住人達の声で溢れかえるだろう。
嫌な夢の記憶を振り払うようにブンブンと頭を振って、凛は着替え始めた。どうせあと二分もしたら隣室のハデスとレシカがけたたましい音を立てておはようコールとか言いながら部屋になだれ込んでくるだろう。それまでにこの、正にうなされていました状態をどうにかしなければならない。
それからきっちり二分後。
ドバーンッと予想通り大変けたたましい音を立てて凛の部屋のドアが開いた。そしてその音より遙かにやかましい存在が二つ、ワイワイとなだれ込んでくる。
レシカとハデスはいつものように部屋になだれ込むと、一目散に凛の寝ているであろうベッドの方へ走り出す。猛スピードで走っていって…ジャーンプッ!
二人の予想ではいつも通り寝ている凛の上に見事着地、大変人騒がせなモーニングコールとなるはずだった。
しかし布団の中に凛は居らず、二人分の体重を一気に受け止めたベッドは文句を言うかのようにギシギシと揺れる。おかしいな、と二人が顔を見合わせた時だった。
「いーかげんにしやがれぇぇぇえええぇ!」
もの凄い叫び声と共に天井から何かが降ってきた。それは音も立てずにベッドに着地すると間髪入れずに立ち上がり、レシカとハデスの首に手を伸ばす。
『グエッ……』
抵抗もできずに首を掴まれ、宙づりになっている二人に不機嫌の固まりが顔を近づけた。
「お前らなぁ…」
野生のライオンでも尻尾を巻いて逃げそうな視線に突き刺され、引きつった声でアハハと笑う二人の耳元に口を近づけて…
「どぉーいうことだぁぁぁあぁぁ!」
思いっきり怒鳴った。あまりの声量に部屋の窓ガラスががたがたと揺れるがそんな物は気にしない。怒鳴り声はまだ続いた。
「まったく、毎日毎日まぁーいにち、人の上に飛び乗って来やがって! ついでに言わせてもらえばてめーらのせいで最近の寝不足に輪がかかってしんどいんだぞ!」
一通り悪態を怒鳴り倒してスッキリしたのか、どさりと二人を離して、近くにあった手鏡を引き寄せる。
「うげぇー。やっぱりすごいクマできてるじゃんか…」
横でゲホゲホ咳き込んでいる二人には全くお構いなしと言った様子で靴を履いて貴重品をカバンに詰める。
「ほれ、行くぞ」
「ぢょ、ぢょっどまっでよぉ〜」
レシカが情けない声を上げたがいとも簡単に破棄される。理由は簡単、アカデミーでは食事に遅れると、一食抜きになってしまうのだ。いくらその理由が不可抗力であっても。しかも、朝食を食べていないからと言ってその日の訓練が軽くなるわけもない。つまり、食事に遅れることは、腹ぺこの状態で超過酷な訓練を丸一日受けることを示している。
朝食の時間まで後三分。間に合うか、三人組!
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