作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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「おーっし!俺はこれに参加するぞー!」

 村の中央広場に打ち立てられた看板の前で俺はガッツポーズを取った。

 看板にはこう書かれていた。


 アルゴス大森林の奥に位置するミラノ遺跡を今日より解禁する。この遺跡に封印されている『降魔の杖』を手に入れし者には、多額の報酬を与え、また栄誉あるアルガニスタン国の騎士として取り立てよう。腕に自身のある者は参加されたし。

 アルガニスタン国 紫竜騎士団長 バイラン


 アルゴス大森林の入り口にあるここオリオン村は、オリオン海岸に面していることから付けられた安易な名前の通り、漁業で成り立つ平凡そのものの村だ。

 俺はいつかこの寂れた村を飛び出し、大志を遂げたいと思っていたが、ついにそのチャンスが今日訪れたのだ!

「やめておけ、どうせまた逃げ帰ってくるのがオチじゃ。何もかも中途半端なお前にこんな大変な仕事、やり遂げられる訳が無い」

 広場に集まっていた村長を始めとする他の若い奴らも皆うんうんと頷く。ったく、どいつもこいつも死んだ魚のような目をしやがって。お前らには夢とか希望とかは無いのかよ。俺は村の奴らを見回し睨みつけた。

「確かに俺は前に一度失敗してこの村に帰ってきたさ。だがな、男が一度や二度の失敗であきらめられるかってんだ!お前らはこのままこんな寂れた村で一生を終えたいのか?!」

 俺がこれだけ言っても誰も賛同してくれる奴はいない。はぁ、全く情けねーぜ。こんなんだから、この村は寂れる一方なんだよ。大体、今年の時化で魚もろくに取れず食うものもままならないってのに、何でこいつらは動こうとしないのかね。

 俺はハァと深いため息をついた。

「でもよ、パンタロンが前に逃げてきたところって、確かアルガニスタンの騎士団だったよな?このお触書にもアルガニスタン騎士団って書いてあるぜ?」

「え?」

 村の奴らに言われ、俺は慌てて看板を見る。

 ……確かにアルガニスタン騎士団とバリバリ書いてあった。浮かれててこんな大事な事を見逃すとは、なんてこった!

 俺は頭を抱える。マジかよ、よりによってあの国からの話なのかよ!ついてねーぜ!……いや、まてよ?

 俺はもう一回看板を見た。紫竜騎士団……。俺は拳を握り締めた。神は俺を見放していなかった!

「いや、大丈夫だって!ここを見ろよホラ。紫竜騎士団って書いてある!俺が逃げ出してきたのは黒竜騎士団だ。だから大丈夫だって!」

「そ、そんなものなのか?」

 アルガニスタンにはいくつかの騎士団がある。白竜騎士団、赤竜騎士団、青竜騎士団、紫竜騎士団、そして黒竜騎士団……。中でも俺が前に配属された黒竜騎士団はヤバイ連中ばかり集まっている無法者の集団で、俺も相当ひどい目にあった。だけど、別の騎士団ならあんな目に会うことは無いだろう。

 俺は黒竜騎士団での出来事を思い出しブルブルと身震いした。灰色の魔術師ニコル、あいつにだけは二度と会いたくねぇ……。

 まぁ、それにアルガニスタン帝国が欲しがっているその『降魔の杖』さえ手に入れてしまえば、前に脱走したことも許してもらえるかもしれない。なんだかんだ言って王国騎士の肩書きはいいもんだ。こんな村人Aで終わるつもりはねーぜ。

 俺は他の奴らを見渡し一人ふふんと笑った。
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