作品名:小さくても大きな命
作者:風下
← 前の回  次の回 → ■ 目次
―和希君と遊ばなくなって、結構な月日が過ぎていた―

朝、唯ちゃんは音楽の流れる目覚まし時計の音で目を覚ました。
窓のほうから、ぽつぽつと雨音が聞こえる。
(眠い……)
そう思いながら唯ちゃんは、短い階段下りてリビングに向かう。

お母さんとお父さんは、朝早くから仕事に行っている。
テーブルの上には、いつものように、ラップのかかった朝ごはんが置いてあった。
『今日の天気は〜〜〜っ!? ズバリ!一日中雨っ!』
テレビをつけたら、ちょうどハイテンション気象予報士の鈴木さんが言った。
そんなことくらい、外を見れば分るよっ!って
唯ちゃんは、鈴木さんにダメ出しをして、

チンッ!

軽やかな音を立てて、焼きあがったパンをかじるのだった。

学校に行く時間。
玄関の隅にある傘をとり、外へ出る。
…鍵をかけることは忘れない。
雨は、鈴木さんが言ったとおり、まだ降っていた。

傘をさし、いつもと変わらない通学路で、
信号が青になるのを待っていた時だった。

…後ろから、和希君たちの声が聞こえてくる…。
「そういえば、もうすぐアレ始まるよなー」
和希君が言う。
「アレって、もしかしてアレっ!?」
友達の鈴木君。
「まじ!?お前アレ見てんのかよ!?」
もう一人の鈴木君。
(アレってなにさ?)
「おい鈴木ー、お前なに考えてんだよー。
俺が言った“アレ”は、
21日から開幕するサッカーの試合のことだぜ?」
また和希君。
「「どっちの鈴木だよっ!!」」
二人の鈴木君が突っ込む。


それにしても。
和希君、楽しそう。
はぁー。
私だけ、一人ぼっちかぁ。
なんだかイヤになるなー…
昔は、あんなに仲良く遊んだのに。
朝だって、一緒に学校まで行ってたのに。
今じゃ、こんな…。
私ばっかり和希君のこと考えて
…バカみたい。
和希君、私のことなんて忘れてたりしてね。
(あは、ははは……、笑えないなぁ。)

やっと青になった信号を見て、
和希君たちに追いつかれないように早足で歩く。

後ろから、急に和希君に呼ばれた気がした。
…イヤ、確かに呼ばれた。
だけど、振り向きはしなかった。
なんでかって?
なんか、皆めんどくさくなったから。

《時が過ぎていくとさ、
取り戻せなくなるものってあるんだよね。
自分の意地になっていっちゃうし、
取り返しがつかなくなっていく。
戻すことはできない。
進む、進む…》

誰とも話したくない。
今だけは、今だけは。
← 前の回  次の回 → ■ 目次
Novel Collectionsトップページ