作品名:妄想ヒーロー
作者:佐藤イタル
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「頭は良いけど、運動はまるでダメ。まるで何かの漫画みたいな話だぜ。そういうキャラクターは大抵すごく体が太かったり、病気持ちだったりするのに、お前の場合何処にそんな要素が入ってんだ。それに無理矢理任されたとは言っても、お前は生徒会長なんだぞ? お得な役職じゃねーか。何で彼女の一人もできねぇんだ」


言われてみれば確かにそうだ。
だがしかし、今の彼の話には一つ大きな矛盾がある。

――――生徒会長だからと言って、彼の言う漫画の様に女の子にモテモテだったりという美味しい話は、現実では一切聞いたことがない。

少なくとも僕の周りには微塵たりとも転がっていない。
もし彼が現実で、ハーレムを作れるくらい女の子に囲まれている他校の生徒会長を見たというのなら、その証拠写真でも見せてもらいたい。実際に写真があるのであれば僕は半裸で校内を一周して来ても構わない。……あくまで半裸だ。流石に全裸はまずいだろう。


とにかく、僕にはそれ程の確信があるのだ。
勿論、僕自身としての問題も多少はあると考えたが、僕は別に極端に顔立ちが不細工なわけでも、現実離れしたほど太っているわけでもないのだ。
ただ運動ができないというだけだ。

以前、中学生の頃――一度だけ井上君に「僕の何処に問題があるんだ」と相談してみたことがあったが、
「そういう所なんじゃねーの」
と返されるのみだった。全く意味が理解できなかったので、彼にアドバイスを求めた。
「女の子は完璧人間よりも、少しくらい問題ある奴の方が好きなんだよ」
「なるほど、問題が」

その日、早速自宅に帰って「問題あります」と書いたダンボールのプレートを首から下げてみた。
(こんなのが好きだなんて、最近の女の子はとても変わっているんだな)
そう考えていた最中、仕事から帰ってきた四歳上の姉さんはそれを見るなり、
「……頭に?」
と言いながら、冷めた苦笑いを浮かべていた。
あの時姉さんが深くを追求しなかったのは、家族に向けてのせめてもの愛情というやつだったのだろうか。それともそれ以上彼女が触れたくない様な世界へと、僕は足を踏み入れていたのだろうか。
少なくともあの時の姉さんの視線は実の弟へ向けるような視線ではなかった。
その次の日、アドバイスをくれた井上君に前日の夜の一部始終を説明すると、彼は涙が出る程笑っていた。



あの時の井上君は、僕の努力を讃えてくれているのだろうかとも思ったが、どうやら違ったらしい。
むしろあれは僕のことを馬鹿にしている笑い方に近かった。
……プレートは、やはり奮発してプラスチックの方が良かっただろうかと思った。
それ以降、試行錯誤を繰り返し、現在は大幅に縮小した白いプレートに名前ペンで「問題あります」と書いて、端に穴を開けて紐を通したものをカバンにくっつけている。




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