作品名:トリガー
作者:城ヶ崎 勇輝
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 神谷鳥牙はバス停まで猛スピードで駆け出した。もちろん、遅刻をしないためだが、彼の場合、遅刻をするともう後はない。
なぜかと言うと、彼は平凡なサラリーマン…いや、神谷鳥牙はサラリーマンではない。それは他人をごまかすためだ。彼の本当の職業は自衛隊なのだ。
それもただの自衛隊ではない。エリート中のエリートと言われるシューティング隊なのだ。遅刻したら即クビだ。そして、シューティング隊はその職を他人に―もちろん妻にも―漏らしてはいけない、秘密組織で、知っている者はほとんどいないだろう。

    〜トリガー〜 ミーティング

 神谷は何とかバスに乗り込み、さっきの電話の内容を思い返した。
“もしもし?神谷?今日特別任務があたし達に来たで。なんちゅうか…あまり大きい声じゃ言えんけど、クラックエイジ…あの物騒な団体となんか関係があるらしいで”
吉川千惟(よしかわちい)…彼…いや彼女は、鳥牙がたみに言ったとおり、シューティング隊の同時期に入隊したスナイパー(狙撃手)である。関西地方出身で、一応女性だが、男っぽい雰囲気を感じさせる。
クラックエイジの情報を頭の引き出しから出して、軽いイメージトレーニングをしていると、目的の駅、『おぼろ商店前』に付き、バスから降りた。
そこは、商店街なのか遺跡なのかさえわからないほど錆びついていた。無論、人など全くない。
神谷は辺りをキョロキョロ見渡しながら、周りの店より数倍はくたびれている本屋の(シャッターは閉まっている)、裏口から中に入った。
本屋の中を誰が想像しただろうか…。千人中千人が驚くだろう本屋の中は、SFの秘密基地のごとくハイテクそうなコンピューターやレーダーが所狭しに置かれている。
そう、ここが神谷鳥牙が勤務するシューティング隊の基地なのだ。
彼は専用のロッカーに荷物をしまい、制服に着替えてミーティングルームに入った。これらの動作はもう考えなくとも出来るようになっていた。
ミーティングルームはSF映画に出てきそうな幻影機(人物や建物などをホログラムで映し出す装置)を中心にデスクが何層にも円形に並んでいる。
そして、ここには彼の他に特別任務の命令を受けた隊員が十数人いた。そこで、あの電話をかけてきた吉川と出会った。
「あたしが予想した時間より5分遅かったな〜。また寝坊か?」
開口早々、吉川は愚痴った。
「ちょいとバスに遅れたんだ。それより、特別任務の事だが…」
神谷は、クールに答えた。
「司令官が直々に任務内容をあたし達に言われるらしいで」
吉川即座に言った。
「お前はこう言うことに関してはちゃんとしてるよな。実戦ではいつも足引っ張るけど」
神谷がクールにひにくった。
「んな…み、神谷ぃぃぃ…」吉川が神谷を睨んでいると、シューティング隊司令官がミーティングルームに入ってきた。
2人を含め(吉川の顔が急に変わった)、特別任務を受けた隊員は即座に司令官に向かって敬礼をした。
司令官は歩きながら敬礼し、彼らの手前10mほど…幻影機の隣で立ち止まった。皆の視線が司令官に集まる。
「皆の衆、これから特別任務の内容を説明する。この任務の最終目標は『日本を救い出す』と言うことだ。クラックエイジが独裁的な政治をしていることは皆存じているだろう。現在は天皇が権力を握っていると言うが、そんなことは全くもって大嘘である」
司令官はここで『DEVIL KILLER』と言うタイトルの写真を取り出した。写真の人物はいかにも悪人らしい顔だ。その下には「SHIROSAKI」と書かれている。
「今、政権を握っているのはあの団体のボスである城崎勇一(シロサキユウイチ)だ。皆は彼を逮捕してほしい。できれば射殺は避けたいのだが…抵抗があればそれでも構わない」
司令官は幻影機のスイッチを入れた。幻影機は機械音を発しながら、巨大な建物―これは、国会議事堂だ!―が映し出された。
「城崎氏は国会にいると推測される。そこはクラックエイジが独占しているだけで、日本の最高機関と言う事に代わりはない。そこさえ崩せばあの団体は滅びる」
幻影機の国会議事堂が後面を残して半分になり、国会内部がよく分かるようになった。
「国会に侵入するとき、二人一組になってゲリラ戦のように一気に押し入る。敵を撃つ時、できるかぎり急所は狙うな。…この時何人犠牲になるかわからないが、国会に入ったとき、参議院側に行く班と衆議院側に行く班に分かれる。誰がどっちの議院に行くかはその時点での勘で決めろ」
1時間後、こうした作戦が詳細まで語り終えた。
「…一斉攻撃は正午だ。最後に、もう皆はわかっていると思うが、任務続行中はニックネームでお互いを言うように。健闘を祈っているぞ」
そう言うと、司令官は敬礼をするとミーティングルームから出ていった。
神谷鳥牙…彼のニックネームは『トリガー』。彼の行動は何かしらの引き金となると言う意味でつけられた。
吉川千惟…彼女のニックネームは『チー』。名前をカタカナにしただけだが、シンプル・イズ・ベストである。
隊員は住民に紛れるために私服を着、同時に愛用の武器を調整したり(ピストルからランチャーまで様々だ)、銃弾を弾倉に入れたりしている。
ちなみに、トリガーの銃は9mm拳銃、9発の弾を入れられる全長約20cmの拳銃である。
チーの銃はM24スナイパーライフル、チーの銃は5つの銃弾を入れられ、非常に命中率が高い狙撃銃だ。
トリガーとチーはたくさんの銃弾入り弾倉を軍服の裏に装着し、その中の一つを拳銃のグリップの中に差し込んだ。これで、安全装置さえ抜けばいつでも発砲できる。
そして、準備が完了した隊員から順に、この基地を出て、戦場へと向かうのであった。

――国会へ…
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