作品名:なんちゃってソードレボリューション
作者:殻鎖希
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      2
フィズ「さて……と。いよいよか。この辺りに人喰い花はいるはずだ。
 残念ながら、今の俺にはほとんど勝ち目はないだろう。敵は世にも下品な鼾と寝言で完全武装してるらしい。早寝早起きを心がけ、清く正しく規則も正しく生きてる俺にはちょっと手に負えない相手かも……」
人喰い花「キシャアアアアッ!」
フィズ「うわ、何かいきなり出てきたぞ。こいつが人喰い花か!
 よし、この俺が相手をしてやる。どこからでもかかって来い!」
人喰い花「………………ZZZ」
フィズ「って寝てるのかよ!じゃあまさか、今の『キシャアアアアッ!』は……鼾?」
人喰い花「!」
フィズ「こ、今度は何だ?」
人喰い花「ムニャムニャ……死戯様万歳!」
フィズ「寝言かよ。確かに五月蠅ぇ……しかも誰だよ、シギ様って!それ以前に、花が言葉喋ってんじゃねえ!
 ……こいつは予想していた以上の強敵だ。魔法の使えぬ今の俺には、こいつを剣で倒すしかない。今こそ見せてやるぜ、この俺の剣の切れをな!
 でやああぁぁ……」
人喰い花「キシャアアアアッ!」
フィズ「って、鼾が五月蠅すぎて力が入らねぇ!
 この野郎、本当に植物なのか?それとも、まさか?
 いや、今はあれこれ考えてる場合じゃない。とにかく攻撃しないと……」
人喰い花「死戯様が道化師のメイクを施すのには……軽く十時間くらいかかるらしい!」
フィズ「知るかぁ!
 ……はっ、しまった!攻撃するの忘れた!」
人喰い花「キシャアアアアッ!」
フィズ「ゲ!蔦が襲ってきやがった。まさか、この野郎、起きているのか?」
人喰い花「起きてない。寝返りだ!」
フィズ「何だ、寝返りか……って、寝言で説明してんじゃねぇ!
 とにかく、避けないと……駄目だ、間に合わ……グッ!
 クソ。分不相応ってやつか、畜生!やっぱり清楚な俺に、こんなお下品野郎の相手なんざ出来るわけがなかったんだ……
 諦めるか?この化け物に喰われちまうしかないのか?」
人喰い花「キシャアアアアッ!死戯様万歳!」
フィズ「……いや、やっぱりゴメンだね。こんな大ボケ野郎を野放しにしておくわけにはいかないんだ。どうせ負けるんだったら、もうちょっと格好良く負けたいもんだよなあ。人間誰しもよお!」
パグラム「……靴屋は退屈や〜」
フィズ「……ってコラ、パグラム!何つまんないダジャレ飛ばしてんだよ!」
パグラム「別に笑いを取りたかったわけじゃないわ!貴方の方こそ、何とか格好をつけてるつもりかも知れないけど、全然なってないわよ。
 ああ、もう!そんな事よりも人喰い花の方を見てみなさい」
フィズ「一体何を……って、人喰い花が凍り付いてる?
 これはまさか、「《聳え立つ氷柱の塔》?」
パグラム「その通りよ。私の叫んだギャグに呼応して、水魔法が発動したの」
フィズ「そりゃあまぁ、あれだけ寒いギャグ飛ばされた日には、氷柱だって聳えたくなるよな」
パグラム「無駄口を叩かないの。今度こそこの花を倒さないと……」
フィズ「なぁ、パグラム。この人喰い花、さっきから寝たり凍らされたりしてるばっかりで全然人を喰う気配がないんだが……」
パグラム「きっと偏食家で人を食べる事が出来ないのよ」
フィズ(それって普通に人畜無害なんじゃないのか?)
パグラム「しかも、こいつには刃物の類は効かないわ。魔法で倒すしかない、厄介な相手よ」
フィズ「厄介ねぇ……
 で、あんたはわざわざその事を忠告しに来てくれたってわけだ。ま、一応は感謝しとくか。でも、俺は魔法が使えないんだぜ?」
パグラム「大丈夫!本編では、この闘いをきっかけにして魔法が使えるようになったでしょう。きっと、なるようになるわよ」
フィズ「いい加減だなぁ……
 ま、いいか。じゃあ、ちょっと試してみるとするかな。この身体に流れる、風の力って奴をさ。
 正確に言うなら、きちんと発動させた事がないだけなんだ。
 こう見えても、スクールにいた頃は成績も悪くなかったんだぜ。算術にしても史学にしても、そこそこはこなせていた。
 ああ。魔法だって、例外じゃなかった」
パグラム「御託はいいから、早く始めなさい」
フィズ「御託って……」
パグラム「ほら、ぼさっとしない!」
フィズ「分かったよ……
 え〜と、集中集中………………」
パグラム「………………」
フィズ「………………」
パグラム「……ねぇ、フィズ。実は私、貴方に一つ言い忘れてた事があるの」
フィズ「………………」
パグラム「あの人喰い花なんだけどね。鼾と寝言だけじゃなくて……歯ぎしりもとっても五月蠅いのよ」
フィズ「って、何だ、その情報はぁっ!」
人喰い花「ギャアアアアァァツ!」
フィズ「って、何だよまた寝言か?」
パグラム「違うわ!今のは悲鳴よ。
 フィズ……貴方、風魔法を撃つ事が出来たのよ!」
フィズ「な、何だって!
 そう言えば今確かに、掌から何か飛び出したような気が……あれが《吹き荒ぶ真空の刃》?」
パグラム「自分で撃っておいて気が付かないのもどうかと思うけど、でもとにかく効いてるわ!
 フィズ!もう一度!もう一度撃つのよ!」
フィズ「よし、分かった。
 なぁ……人喰い花さんよ。別に分かってくれ、とは言わないぜ。あんたは鼾をかいちまったんだ。おまけに寝言や歯ぎしりまでこぼした。
 依頼された通りに、俺はあんたを始末する。所詮は弱肉強食ってやつだろ。次があるなら、人の手の届かない、もっと静かな場所で思い切り寝るんだぞ」
人喰い花「ギ……ギィ……」
フィズ「……って、こんな理不尽な依頼がこなせるかぁっ!」
パグラム「え゛……ちょっと!何でこっちに向かって撃つのよおおおぉぉぉっ!」

フィズ「力の限りにぶっ放した俺の風魔法は、人喰い花ではなく、パグラム・ユーネルという一人の女性を吹っ飛ばしていた。
 こうして、一つの事件は終わりを告げたのである」

      3
フィズ「人様に受けるボケを手に入れたい。そのために探偵になった。俺自身が誰よりも面白くなって、最高のボケを手にして……
 いつしか俺はボケに頼るようになっていたらしい。ボケようボケようとして、それで自分が面白くなったと勘違いして。
 俺が魔法を使えなかったのも、お笑いに対する甘えがあったからだろうな。ボケに頼りすぎた結果、うまく構成を編めなくなっちまってたんだ。だから、ボケを完全に手放して突っ込みに走ったあの時、俺は初めて魔法の発動に成功した。
 ボケを求める事が落ち度になってたなんてな。本末転倒だ。この俺自身が本当に面白くならないと意味がないのにさ」
パグラム「ごめん。どこをどう聞いても全然いい話に聞こえないんだけど、それ。というか、そこまで公式設定を脚色しちゃっていいの?」
フィズ「たまにはいいだろ。こういうのも」
パグラム「毎回やったら承知しないわよ」
フィズ「まあいいじゃないか。パグラムも、身体の方の調子は良さそうだな」
パグラム(自分で怪我させといて、何をぬけぬけと……)
フィズ「何か言ったか?」
パグラム「い、いえ何でも。
 いつまでもこの村でご厄介になれないから。もう少ししたら、また旅に出ようかなって言ったのよ」
フィズ「そろそろ、動いても大丈夫なのか?」
パグラム「だから、あんたが言うなって……もとい、今日はまたどうしてお見舞いに来てくれたの?」
フィズ「面倒な仕事も今のところはないし、もう一度話がしたかったんでね。あんたが村を出る前に。
 それに渡す物もあった事だしな」
パグラム「これは、千レア紙幣……?」
フィズ「報酬は五千レアでいいよ。そいつは、あんたの分け前にしてくれ」
パグラム「出たの、報酬?結局、人喰い花倒さないままで帰ってきちゃったのに」
フィズ「ああ。村長の家の庭先をちょっとだけ風魔法で吹っ飛ばしてみたら、何か支払ってくれたんだ」
パグラム「可哀想な村長さん……」
フィズ「聞こえねぇなぁ。
 渡す物は渡した事だし、俺そろそろ帰るわ」
パグラム「あ。ちょっと待って。
 宿の人から聞いたんだけど。人喰い花が棲み着く二、三日前に奇妙な客が来たんだって」
フィズ「奇妙な客?」
パグラム「真っ白な肌にペイントされた青紫の模様。服も帽子も全てが同じ色に彩られたピエロだったそうよ」
フィズ「何だって?」
パグラム「貴方、心当たりあるの?」
フィズ「面を拝んだ事はない。ただ、ちょっとした因縁があるだけだ」
パグラム「貴方みたいな人と因縁がある時点で、すでにただ者じゃないような気がするけど……
 ある日、それまでの宿代だけを残して忽然と消えてしまったそうよ」
フィズ「神出鬼没な道化野郎なんだよ、あいつは」
パグラム「……何があったのかは知らないけど」
フィズ「ん?」
パグラム「気をつけた方がいいんじゃない?そのピエロ……どうも匂うのよね。
 そうでなくとも、貴方を超える大ボケ野郎なんて、この世に吐いて捨てる程沢山いるのよ」
フィズ「嫌になるほど肝に銘じてるよ。
 ……病人相手にすっかり話しこんじまったな。今度こそ、俺帰るな」
パグラム「うん、分かった」
フィズ「また、縁があったら会おうぜ。そん時は、ご自慢の詩でも堪能させてもらうかな」
パグラム「……今聴かせてあげるわよ」
フィズ「本当に?」
パグラム(もう二度と会いたくないから)
フィズ「早く、早く聴かせてくれよ」
パグラム「分かったわ。それじゃあ始めるわよ。
 フィズのおねしょは十歳まで……」
フィズ「そんな歌作るなああぁぁぁっ!
 もう、ええわ。どうもありがとうございました」
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