作品名:幸運少女☆笹原麻耶〜初詣〜
作者:リョーランド
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 正月早々暴れたのはさすがにまずかったわね。

 しかもあいつらの顔をよくよく見たら、以前にも会った事があったのだ。
 かいつまんで説明すると、私と麻耶が夏休みを利用して、東京の秋葉原にと足を運んでMDコンボを買いに行った時だ。たまたま麻耶が可愛らしい服装で来たばかりに、数人のカメラ小僧に囲まれてしまった事があった。

 尚、それから彼らがどうなったか、普段の私を知っている君になら分かるだろう?
 裏道に誘い込んでボッコボコにしてやった。
 恐らくその時の光景を覚えていたのだろう。怒った女の子が近づいて来た割には随分恐怖に塗れた顔していたから。

 まぁいい。あのような下らん男子の為に貴重な元旦を無駄に使いたくない。
「泉ちゃん、お茶が入ったよ」
 麻耶が入れてくれたお茶を手に取り礼を言うと、それを口に運ぶ。
 物凄く美味しい。ちょうど良い熱さでちょうど良い苦味。それがお茶菓子のどら焼きとまた合う事合う事。
「凄いでしょ?ドロシーちゃんがお茶をたててくれたんだよ」
 ……うん?今ちょっと場違いな名前が挙がったような?
「ドロシーちゃん?」
「そうだよ。ドロシーちゃんってね、茶道もやってるんだって」

 なんというか。
 ますます外人にしておくには勿体ねえ……

「なんでも、住職さんがアメリカに行った時に連れて来たんだって。それで色々と日本の文化を教えているらしいんだよ」
 楽しそうに話す麻耶だが、そんな住職の部屋をさっきちょっぴり覗いてきた私は、ますます頭が痛くなる思いだった。なんでお坊さんが洋楽やらR&Bやら聞くのか。しかもお坊さんがロックを聞きながら焼肉食べるってどうよ……
 しかしここで我慢だ。何しろこの神社は麻耶が毎年行っている神社である。
 それなら、ここが麻耶のあの非常識な幸運の拠り所の一つに他ならない。
 ここで神様の気を引いておけば、私にもこの子の幸運にあやかれるという物。既に何度もあやかっている気もするがそれはそれ、これはこれ。
 現に私は岸部君への片思いについて、もはや神にだろうと縋りたい気分なのだ。ただでさえライバルが多いのだから分かるでしょう。
 するとそこへ、先ほどの巫女さん、ドロシーさんが入ってきた。
「お二人さん、おみくじはせえへんの?」

 そう言って彼女が持ってきたのは小さな木でできた箱だ。どうやらこの中におみくじが入っているのだろう。
 しかし私はおみくじを引いても毎年小吉やら中吉やら、非道い時には何度引いても凶だった時がある。中々大吉を引いた試しがない。
 しかも神様はよっぽど私が嫌いらしい。何度初詣で「今年こそ岸部君と仲良くなれますように」と願っても、『願い事……難しい』とか『恋愛……諦めましょう』とかだったりするのだ。
 つまり私にとって、おみくじは新年早々私のテンションを下げてしまう、近代兵器と言っても過言ではない。
「おみくじはそれほど近代でもないよ」
 うるさいわね……ってか何で私の心の言葉が分かったのよ?
「私と泉ちゃんの絆だよ」
 こうもこっ恥ずかしいセリフをさも平然と言えるとは。しかも照れ笑いに人差し指を唇に付けると言うオプション付き。
 やべ、あまりの可愛さに鼻血出そう……
「同性愛には寛容な神様なんやでここ」
 ちょっと巫女さんは黙ってようね。向こうでお神酒でも飲んでなさい。
 気を取り直して、おみくじの入った箱を奪い取る。

 そして深呼吸……
 すーはー、すーはー……

「なんやえらい気合の入れようやな?」
「そこが、泉ちゃんの可愛い所だよ」
 横でギャラリーがうるさいがムシムシ!
 さて、新年早々一発目は……


「だ、大吉!!?」


 私は一瞬、これは夢なのだろうか。不覚にもそう思ってしまった。
 何故なら、私はこれまでの16年間、ただの一度も「大吉」だなんておみくじは引いた事がなかったからだ。
 しかもそれを開いてみると、その内容を見てまた驚いてしまった。

『恋愛運』……期待大!慕っていたあの人と急接近?
『健康運』……絶好調な予感。
『勉強運』……頑張れば良い事が起きます。

 なんだこれは?最強のおみくじではないか??
 人生ここまで結果が良かった事など稀の稀だ……あはは、涙出そう。
「おめでとう、だよ」
 あぁ、麻耶がサムズアップしてくれている。ありがとう、多分あんたのお陰っていうのもあるんだよなぁこれが……
 まさか麻耶が「大吉引いて」だなんて願ったから引いたんではないだろうか?
 そう思った直後、考えるのは止めた。どうせそれを麻耶に言ったとしても、こいつは私の運が良いからだ、と言って聞かないだろう。
「それじゃ、私だよ」
 今度は麻耶だ。
 この幸運少女の事だ。結果など火を見るより明らかであろうに。
「あれ?」
「どうかしたの?」
 今度は超大吉だった、なんて言わないでよね。
 そう言いかけようとした私は、麻耶の言葉を聞いて驚愕してしまった。
「残念。大凶だよ」


 ……………………………………????


 はて?私の聴覚は何時の間に狂ったのだろう。
 残念そうに笑ってる麻耶からおみくじを奪い取って開いて見ると、そこに書かれてある結果に私は愕然とした。

『健康運……一日中家にいた方がいい』
『願い事……適わず』
『恋愛運……実りません』

 な……ななな………ななななななななな…………

 なんなんだこれは!!?まさかあの幸運少女が??新年一発目に大凶って、そんなアンビリーバボーな事があって良いわけ!!?
 これはまさか、天変地異の始まり?もしくは世界の終わりなんじゃない??
 だって麻耶よ!?
 ミサイルが放たれても急な突風で当たらないわ、アイスは食べたくなればすぐに「あたり」を引き出すわ、商店街のくじで伊豆旅行当てるわ、それでなくとも私達が結構災難に見舞われてるのに、こいつだけは何の苦労もせずに解決してしまえるのよ!?
 こいつの幸運振りをいつも見ている私としては、この女があろうことか、「大凶」を引いている事自体、あり得ないのだ。
 すると、巫女さんも呆れた声を出した。
「あ〜あ、麻耶ちゃん、また大凶やな」
 また大凶か。全くこれで何度目なんだか……


 待て。今さっき「また」っていったな?


 さっきの事で私の耳がおかしくなっていなければ、さっきこの金髪黒人ついでに大阪弁の巫女さんは「また大凶」とかほざいたな?
「また、って?」
「うん。私ここ来ると毎年大凶引いちゃうんだよぉ」
 どうやらこの子、毎年ここに来ると決まって『大凶』をひいてしまうらしい。
 まぁ、数少ない大凶を引くのだってそれなりに運試しというのもあるけど……いくらなんでも毎年毎年って……
「おまけにそのおみくじ、大吉と大凶しかあらへんやな」
 ちょいとちょいとちょいと!!
 ますます待たんか!それじゃあおみくじの意味ないがな。
「まぁ、おもろいからええんと違う?」
「……は、甚だしく、違うと思いますが?」
 がっくりと肩を項垂れた私であった。


 ちなみに余談だが、あの後すぐさま第一神社に赴いておみくじを引いたところ、私は末吉だったのに対し、この子は大吉を引いていたという。
 それ以来、私が第二神社に行った記憶は、あまりない。
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