作品名:ワイルドカッター
作者:立石 東
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カズマたちは階段を駆け上がり、侵入口にたどりついた。地下深く掘り下げてようやく見つけた入り口だったが、ピラミッドはゆっくりと浮上していたため、入り口はすでに地上よりも高い位置にあった。
ピラミッドの側面から砂漠の地平線を見渡すと、砂塵が見えた。
「連合艦隊が向かってくる」
クマが叫んだ。
「予定通りだ。急ごう」
ハラダは斜面を滑り降り始めた。その時、ピラミッドの頂点が開き、中から無人レーザー砲が立ち上がった。砲塔は地平線の軍艦にビームを発射した。ビームは一直線に伸び、戦艦に命中。戦艦は閃光を放ち爆発した。
カズマはピラミッドから降りると、ミハルを降ろした。ミハルはふらつく足でハラダに駆け寄った。
「パパ、大丈夫?」
ハラダの出血はひどく、止血に巻いたシャツが赤く染まっていた。
「ミハル。俺はこのくらいの傷では死なない。それよりもカズマを」
ミハルが振り向くと、カズマはコンバットロボに駆け寄り、コックピットに座った。
すぐに掘削用アームを外し、戦闘用アームに取り替えた。
「カズマ、どうするつもりじゃ」
ゼンじいがカズマに尋ねた。
「ピラミッドは外からの攻撃では倒せない。俺は内部から破壊してやる」
「それしかないな。その前に一言だけ伝えておくことがある」
ゼンじいは改まった口調で切り出した。
「時間がない、手短に言う。おまえはこのピラミッドの正統な後継者の一人だ。このピラミッドの威力は計り知れないものがある。カトーが言うように、このピラミッドを手に入れれば、世界の王として君臨することも可能かもしれない」
と、ゼンじいが言ったとき、ピラミッドの頂点から第二波が照射され、連邦軍の戦艦がまた閃光を上げて沈んだ。連邦軍の反撃が始まった。
「ゼンじい、俺は人間なのか」
カズマは困惑していた。
「もちろんだ。おまえはワシの自慢の息子だ。このピラミッドを残した先祖たちが何を望んだのかわからない。しかし、これほど恐ろしい兵器はない。カズマ、この遺跡をどう使うかで地球の運命は決まる。カトーのような奴が後継者になることはどうしても止めなくてはならない。今回のことがなくても、ワシはいずれおまえをここにつれてくるつもりだった。予定より少し早いが、この機械をおまえに預ける。いいか、カトーから王座を奪い返せ」
「了解」
カズマはうなずき、エンジンを吹かした。
「カズマ、背中に機関砲を装着した。武器はあとトマホークだけだ。なあに、いつもやっている遺跡発掘と思えばいい、頼むぞ」
クマが大声でコックピットのカズマに言った。
「まかせな。金目な物探しておくよ」
カズマはクマに答えた。血だらけのハラダが立ち上がり、腰のガンベルトを外しミハルに渡した。
「ミハル、カズマにこれを」
「パパ、立たないで」
ミハルはマグナムを受け取ると、カズマに手渡した。カズマは頷き、ガンベルトを腰に締めた。
「カズマ、必ず帰ってくるのよ」
カズマはミハルの眼に涙が浮かんでいるのを見た。
ピラミッドは砂を跳ね上げながら地中から浮かび上がり、頂点はすでに50メートルの高さに達していた。
カズマはコンバットロボットを大きくジャンプさせて、ピラミッドの中腹、入り口の6メートルほど下に着地させた。着地と同時にトマホークを、ピラミッドの側面を切り込んだが、ピラミッドの装甲は硬く、歯が立たなかった。機体がずるずる側面を滑りだしたが、カエルのように側面に張り付き滑り落ちるのをどうにか防いだ。
カトーは遺跡から警告を受けた。
「警告」
と、いう文字が脳に浮かび、カトーの意識にコンバットロボが側面に張り付いている映像が浮かんだ。
「あの小僧、コンバットロボで戻ってくるつもりか。振り落としてやる」
カトーは遺跡が空に向かって急浮上する様を思い浮かべた。その意思を受けてピラミッドは、砂を掻き分け地上に浮かび上がった。
上空に舞い上がった遺跡を見上げて、クマが叫んだ。
「ピラミッドの下にもう一つ逆さまにピラミッドがついているぞ。奴は8面体なのか」
「確かにピラミッドではないな。ワシの調査不足じゃな」
ゼンが苦笑いを浮かべた。
8面体は砂漠の強い太陽光線を側面にぎらぎら反射しながら、浮上を続けた。頂点までの高さはおよそ120メートルにも達している。最下部の頂点は地上から20メートルほど浮いていたが、小高い砂丘や遺跡をよけもせずに真っ直ぐに進んだ。
側面にへばりついているカズマのロボットを見るとカトーは、
「小僧、これでも食らえ」
と、ビーム砲をカズマに向けた。カズマは光の帯が到達する直前に内部に飛び込んだ。
カズマは、つい先ほど、脱出のために駆け上がった階段を今度は滑り落ちるように駆け下りた。
武器庫を通り過ぎ、ドアを破壊して人口受精の部屋に入ると、ガイコツロボが自動小銃で一斉射撃を始めた。コンバットロボの装甲にバリバリと音を立てて雨のように弾丸が当たったが、カズマは気にせずに、機関砲の照準を合わせて、ガイコツロボを一発で吹き飛ばした。
地上に残った4人はクマが操縦するホバークラフトで戦闘地域から猛スピードで脱出した。
ハラダの出血は止まらなかった。
「パパ、しっかりして?ドクター、どこかで応急処置しないと、死んでしまう」
ミハルがゼンに懇願した。ようやくゼンは8面体から5キロ離れた砂丘の陰にホバークラフトを止めさせ、応急手術をはじめた。腕に注射を打つと、ハラダは気を失った。ミハルが心配そうにゼンを見つめる、ゼンは言い訳するように言った。
「モルヒネだ。大丈夫、ハラダの精神力があればこのくらいの傷は乗り越えられる。クマ、協会にハラダの具合を伝えておけ」
カズマは室内に踏み込んだ。同時にチューブの陰に隠れていたコケシロボが鞭でコンバットロボの足を掴んだ。カズマは足を振り上げて鞭を引っ張りピンと張るのを見計らって足を前に出して鞭を緩めた。コケシロボは簡単に体勢を崩し転倒した。カズマはすぐさま転がったコケシの胴体を蹴り上げた。コケシは激しく回転し、チューブを砕きながら転がった。カズマはこけしロボの胴体に機関砲を撃ち込み、完全に爆破した。
人工授精室から、センターに繋がる階段は閉じられていた。カズマはトマホークを振り上げ、2回、3回とドアを打った。4回目に湾曲し、5回目で亀裂が入った。カズマはその亀裂にロボットの指先を捻りこみ、引っ張り上げた。ドアはひしゃげて外れた。
「どうせぶち壊すんだ、派手にいこうぜ」
ドアを外し、カズマはロボットから飛び降りた。ここから先の階段は狭く、コンバットロボでは降りることができない。コックピットから飛び降り、カズマはハラダのマグナムを右手に握り、階段を下りた。
最後のステップを降りると、ドアが開いた。カズマは壁に体を寄せ、左手を添えてマグナムの銃口をカトーに向けた。スクリーンには連邦軍の攻撃の模様が映し出されている。カトーは、シートに座ったまま攻撃の模様を眺めていた。
カズマはマグナムを連射した。弾丸を一点に集中させたが、バリアーはたわむばかりで、貫通しない。その時、レーザービームが的確な射撃でカズマのマグナムを叩き落した。
「兄弟。戻って来るとはいい度胸だ」
カトーはゆっくりと振り向いた。
「兄弟?」
「俺たちは同じ真空管で生まれた兄弟だろ。ウァッハッハッア」
カトーは大声で笑った。
「良いものを見せてやる。あそこに見えるのが、私を討伐にきた連邦軍艦隊だ。この短い時間に関東全域に配備されていた戦艦をかき集めたようだな。たいしたものだ。しかし、今、すべてをスクラップにしてやる」
カトーが言うや各頂点からレーザー砲が現れ、一斉にビーム砲を発射した。
レーザービームは一直線に各艦に向かって走った。積み込まれていた弾薬類、燃料が一斉に誘爆を起こし、黒煙を上げて燃えた。そのあまりの破壊力にカズマは立ちすくんだ。
「次はあいつらだ」
メインスクリーンに、ホバークラフトの姿が映し出された。
「逃げろ、逃げろ、はっはっはっ」
ホバークラフトは砂塵を巻き上げ猛スピードで離れていく。ゼンじいがこちらを見上げて操縦席のクマに右に行け、左に行け、と叫んだ。ミハルが怯えた眼で見上げている。
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