作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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 因果応報という言葉がある。そう、自分の行いは廻りまわって自分のところに戻ってくるという意味だ。だが、それは自分の犯した罪に対して使用される言葉であり、自身の保身や、人助けに関してはこの四字熟語は無関係と思える。特に後者の方に言わせれば『情けは人の為ならず』という諺が当てはめられる。
 誰かに良いことをすればその人の為になる。ゆくゆくは、自分にだってその構成が何らかの形で帰ってくるかもしれないではないか。しかし、結局は自分のしたことがその内、善悪関係なく帰ってくる、という意味合いであれば、やはり因果応報という言葉でし表せられないかもしれない。
発音は、確かに後ろ向きな雰囲気を感じさせる。だが、確かに意味的には合っているのだ。自分のしたことは、善悪関係なく、そのうち自分のところに戻ってくる。時間の問題でもない、遅かれ早かれ、来たときがそうだ。
誰かのためにやったことかもしれない、だがやられた相手は怒る。なにせ不本意のそれなのだ、勝手なことをされてはたまったものではない。
故に八神 光夜は、因果応報という言葉が適用される率が、たぶん世界でも上位に入る現状にあるのかもしれない。それはなぜか、光夜のことを気に入らない連中が、シめる所を逆に、コテンパンにされ続けているためだ。
昨晩、光夜の発作が一年ぶりにぶり返した。桐嶋 明曰く、それは光夜が蔑ろにしている剥離した本質であり、使用しない部分が精神だけ部分的に成熟し続け自我を持ったものだという。だが、元は光夜のものだ。その剥離した部分は、言うなれば今の光夜に足りないものの塊。そう、例えば欲望の一部、感情の一部、そんな光夜に足りないものの塊が、『本質』だ。
今回光夜の発作は如何なる理由で起こったものか、それは一年前の我慢の限界を迎えたせいだ。一年前、光夜はある事件を明と関わった。その時、当時で言えば五年ぶりに光夜の発作が巻き起こった。事件中、発作は頻繁におき続け、明はとても珍しい体験をした。二人の光夜と関わったのだから。
その時、本質は事件を力任せに解決したおかげでストレスを発散できたらしい。五年分のストレスを、だ。しかし、その事件がとても印象的だったのだろう。たった一年で、快感を忘れられない本質が、光夜の中で発作となって表れたと思われる。
 つまるところ、前より我慢弱くなって、退屈に飽きたからなんかさせろ、というのが今回の発作のすべて。で、そのストレスの発散を可能とする有効なシチュエーションが昨晩、完成していた。
 いつも群れている三年生の一人が、夜な夜な街を出歩き、苦しんでいる光夜を見つけた。そして、苦しんでいる光夜をいたぶってやろうという、無駄な思考をしてしまったのだ。
 だが、結果は無残。明け方近く、新聞配達の兄さんが、道で倒れているその男を発見したのだ。早朝の病院搬入第一号に、その男はなってしまったそうだ。現在も、病院で様子を見ている。
 そう、それが因果応報の発端。
 二時間目の授業が始まっている。今朝から、それもこの時間帯にも関わらず、部活棟のほうが忙しなかったのだ。
朝連の生徒が部活棟を使うのは判る。だが、忙しない気配は、二階以上の文化部用の部屋から聞こえてきた。朝からこの時間まで、文化部はどこも部活棟を使用していない。そして、使用されている文化部の部屋は通常施錠されているはず。だが、未使用の部屋はどうだろう、良からぬ考えを持った人間たちが、たむろしている可能性があった。
「なぁ、後藤はどうしたんだよ、休みか?」
「は?なにお前知らねぇの?あいつ今入院してんぞ」
「はぁ?何だよそれ!?」
顔つきと、服装のだらしない、明らかに不良ですと言わんばかりの男子学生が四人、通常は五人セットなのかもしれないが、一人はいない。そう、彼らの話の通り、一人は現在病院のベッドで横になっている。
「今日の朝、新聞配達の人間が道端で倒れてる後藤を見つけて、そのまま救急車で病院直行だとよ」
「おいおい、なんでそんな事になってんだよ」
「知るかよ、聞いた話じゃ倒れてた理由云々よりも、倒れてた時間が長くて風邪気味らしい。今ごろ点滴打ってる最中だろ」
一人は頭をかいて訳がわからず、一人は苦悶の表情を見せている。彼らには彼らの仲間意識がある。いつもの仲間が今朝病院に運ばれたなんて話を聞かされてしまえば、まともに思考は出来ない。そう、何がどうなって今に至っているのか、彼らはそれだけが知りたかった。
今は風邪引いて念のために病室で点滴を打っている?
そんな事はどうだっていい、知りたいのは、どうしてそんな事になってしまったのかということだ。その真実だけが必要だ。なんだって、気の合う仲間が、夜明けの道端でぶっ倒れていたのか。
「っくそ、どこのどいつだよ、そんな生たれやがったのっ」
「気絶だぜ!?あいつがそこらの連中に負けるほど柔じゃねぇ」
「ああそうだ、こう言うのもあれだがよ。俺たちの中じゃ二番目に八神と張れた人間はアイツなんだ。そんなアイツが負けるわけ―――――」
その時、その言葉を遮って机が激しく転がる音が室内に響いた。外に聞こえるという心配など全く考えないで、全力で蹴り飛ばしたのだ。いきなりの騒音にそれまで話していた三人が驚いて体を硬直させていた。
机を蹴り飛ばしたのは、それまで三人の話を聞いていた、少し三人よりも恐そうな顔をした四人目の仲間だった。いきなりの乱心に三人とも動けずにいた。その隣で、机を蹴り飛ばしたときに一緒に倒れた椅子を起こしそれに座った。
「・・・・・・八神だ」
ぼそり、と小さく彼は呟いた。八神が、どうかしたのだろうかと三人は顔を向き合わせるしかなかった。だが彼は続けた。後藤という男は、八神によって倒されたと。
「昨日の夜、後藤は近所を散歩していたらしい。その時、偶然八神とであって、日頃の腹いせに懲らしめるつもりだったらしい。だが返り討ちにされて朝まで気絶させられたってことだ。今朝、俺が病院行って話しを聞いてきたから、間違いない」
「おい、おいおいおい、なんだよそりゃっ!またか、また八神の仕業だってのかよ!?」
「ちくしょう、いつもいつも生こきやがって・・・・、ムカツク野郎だなおいっ!」
「おい、こうなったら全員で行くぞ。他の連中も呼べ、一斉にかかりゃ八神だって―――――」
「馬鹿か、そんなのだいぶ前にやって返り討ちにあってんじゃねぇかよ。同じ目に遭うだけだっての」
「じゃあ、どうすんだよっ、このままやられっぱなしで我慢しろって言うのかよっ!?」
「んなこと言ってねぇだろうが!もっと考えろっつってんだよ!?」
「ああ!?やんのかコラァ!」
なぜか、協力心が溢れ出して互いに一触即発の状況になりかけていた。急いては事を仕損ずる。だが、彼らにまともな思考があるはずもなかったが、展開は変わってくる。
「なら、直接八神を叩くより、間接的にしたほうがいいな」
「あ?間接的だ?なんだよ、そりゃ」
「人間誰だって知られたくないことや関わりたくないことがあんだよ。ようは弱みを握って、身動き取れなくしてボコすりゃいんだよ」
お、それいいな。と、一人が楽しそうに答えた。確かに、相手が手を出せない状況にすれば、殴り放題蹴り放題だろう。だが、彼らにそれが見つけられるだろうか?
「・・・・って言うかよ、なんだよ八神の弱みって。あいつ、誰ともつるんでねぇし、遊んでもいねぇから、妙なネタなんか握れねぇぞ」
だが、そんな回りくどいのはいらないと、一人が言った。
「いるじゃねぇかよ、八神が頭のあがらねぇ人間が一人だけよ」
「いたか、そんなやつ?」
「ああ、八神の入ってる同好会のへんてこな二年の女か」
「そうだよ、流石の八神も女には手は出せねぇし、その女、八神にびびることもなくやってるそうだぜ」
「はっ、あの八神も女には甘いらしいな」
じゃあ、決まりだな。と四人は歪んだ笑顔で頷きあった。
「話じゃ、八神はいつもその女よりも後に部室に顔を出すらしい。んで同好会は毎日活動しているらしい」
「話は簡単だな。女が先に来たのを確認したら、とりあえず連れ出す。んで、八神に置手紙でも置いて来い。そうすりゃ、血相変えて飛んでくるに決まってる。そうしたら、好きなだけボコれんだよ」
楽しそうに、けらけらと一人は笑う。もう一人は、ポケットから小さな金属片を取り出す。それを得意げにちらつかせた。
「へへへ、ボコるだけじゃ足りねぇなぁ、今まで散々痛い目に合わされてきたんだ、切り刻んでやるよ・・・・」
それは手のひらサイズの小さな折りたたみナイフ。あわよくば、流血沙汰になってもらいたいと思っているらしい。四人が四人とも、それぞれに笑いを浮かべていた。
不穏な空気、因果応報とは、果たしてどういう結果になるだろうか。



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