作品名:ここで終わる話
作者:京魚
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疲れ果て、帰国への長い道。
勝利に湧いた一瞬の喜びを、激しい疲労と痛みで皆口を閉ざしただただ歩いていた。
僕は最後尾にいた。歩く気力もなく、のろのろと歩いているといつの間にか最後になってしまったようだ。
最後尾は殆どが重傷の怪我人だった。痛みで自然と歩みが遅くなる。崩れて置き去りになる者もいた。
「タナー!」
僕を呼ぶ元気な声が聞こえた。顔を上げると手を振るジールの姿が遠くに見えた。心配して待っていてくれたのだろう。
ジールは勝利に嬉々とした表情で、力強く手を振る。光りが薬指のリングに反射してキラキラと光った。僕は眩しさに目を細めて、しかし微笑んで手を振り返した。
ジールが何かを言おうと口を開いた。
その時…
世界が真っ暗闇へと引きずり込まれた。
それはタンビリー最後の抵抗だった。最後尾を除いたほぼ全ての兵隊は投げ込まれた爆撃の餌食となり、後にたった黒い煙に命を吸い取られた。
最愛の友、ジール。
僕は君を失った悲しみをどうやって埋めてゆけばいい。
家族に捨てられ家族を捨てた僕にとっての唯一の家族だった君は、僕にとって失うには大きすぎる存在だった。
僕は泣き崩れる君の妻をどう慰めればいいんだ。
自分でも立ち直ることのできないこの悲しみを持って、彼女に勝利の喜びを引きずる一兵隊として、悲話を土産に会いに行くなんて、僕は君の崇拝した神を殺してやりたかった。
人生ほど皮肉なものは存在しない。
どれほど悲しみや憎しみに苛まれようと、生き残った人間には理不尽な人生を歩み続けることしか残っていないのだ。
僕は君の犠牲を糧に上へいく自分を呪った。
なぜ全てが望みのままに進まないのかと。
全て出なくてもかまわない、ほんの小さな望みでもかまわない。
しかしそれすらも叶わない自分の運命に、これほど憎しみを感じなければならないのなら、なぜ自分はこの世に生を受けてしまったのだろう。
そんな哀しみに暮れる僕だったが、ただ一つ叶った望みがある。
こんなもののために捨てた犠牲の大きさに思わず失笑してしまいたくなる暗いのことだが、叶ったのは事実だった。
僕は上にいった。
理由は簡単だ。
あの大惨事の中僕のみが無傷で生還したからだ。
僕は望み通り上に行った。
しかしその望みが不本意でなかったことに、この頃の僕は気づかないふりをしていた。
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