作品名:雪尋の短編小説
作者:雪尋
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「上手なプロポーズの断り方」



「ねぇ、結婚してよ」

「ごめんよ。君と結婚するつもりは無いんだ」

 愛が無いことを語ると、彼女は怒って僕にグラスの中身をブッかけてきた。怖い。



「そろそろ……ね? 結婚しようよ」

「ごめんよ。親が君との結婚に反対しているから」

 前回の失敗を踏まえた僕はそう答えたけれど、彼女は諦めなかった。なんと僕に内緒で実家へと挨拶に出向き、ガッチリと両親のハートをキャッチしたのだ。恐ろしい。



「いい加減に結婚しなさいよ」

「ごめんよ。実は僕には借金があってね。それを返すまでは……」

「貴方に借金が無いことは確認済みだけど、お金が必要なら用意してあげるわ」


 彼女は机に札束を叩きつけて不敵に笑った。その迫力に僕はチビりそうになった。



「どうして結婚してくれないの?」

「実はね、僕には好きな人がいるんだ。片思いでさ。だから……ごめんね」

 僕は覚悟を決めてそう言った。
 二日後、その好きな人は海外に転勤していった。栄転らしい。
 もちろんその女性の栄転は、彼女がプロデュースしたものだった。
 


「結婚しましょう」

「何故だい? 僕と結婚することに何かメリットがあるのかい?」

「ええ。あるわ。そしてデメリットは無い」


 断言した彼女にそれ以上の追求は出来なかった。
 追求すれば、僕はますます追いつめられる。



「いい加減に結婚しなさいよ!」

「君なら……君なら、確実に、僕よりいい男を選べると思うんだけど…………」

 彼女は僕に正座を要求し、それから12時間に渡って僕への愛を語った。正直重い。



「結婚するわよ」

「もう勘弁してくれよ。僕は君を愛していない」


 今度は26時間だった。






「これが最後のプロポーズ……愛してます。結婚してください。お願いします」



 交通事故だった。生命維持装置につけられた危篤状態の彼女を前に、僕は涙を流す。


 正直言って彼女は恋人ではなく、ただのストーカーだった。


 だが、これはどういうことだ?
 彼女は死にそうで、それでも僕を愛していると言っている。
 これも……ストーカー行為の一つか?



 上手なプロポーズの断り方。彼女が二度とプロポーズしてこなくなる、魔法の言葉。


「僕と、結婚してください」


 これで彼女は二度と僕にプロポーズしてこない。




 そして彼女は満面の笑みと共に息を止めた。






 だが、十分後。
 彼女が息を吹き返して峠もバッチリ越えたということを医者から聞いた。
 それは愛の奇跡というよりも、恐るべき執念のなせるワザだった。

 やはり彼女は怖い。

 しかし、もう二度とプロポーズされることは無いだろうから、それで良しとしよう。







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