作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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一夜明けて、二日目。
光夜から預かったキーホルダーを眺めつつ、授業の開始を待っていた。普段ならこのまま一人で時間を潰すんだけど、一度流れ出した水は川になって海になる。僕は、もう一人じゃなかった。
「おはよ、朝からなにしてるのよ?」
「・・・・・・」
「ちょっと、何黙ってるの、昨日のことまだ根に持ってるとか?」
「昨日のこと・・・・・、あ」
そこまで言われてようやく思い出す。古西 春香さん、昨日友達になった人だ。あまりに唐突故に、記憶から消える時間も早かったらしい。
「ごめん、忘れてた、友達になったこと」
「はい?」
首を人形のように傾けて古西さんは困った顔をする。むー、どう説明したものだろうかと、僕も悩んだ。
「普通、友達のことって忘れないと思うんだけど・・・・」
「だよね・・・・、やっぱり一人でいたのが長かったからかなぁ」
どうしようもないのだけど、このまませっかく友達になった人と仲たがいはしたくないし、でも直ぐには治せそうにないし・・・・どうしたものだろう。
「そうねぇ、忘れられるのは困るわね。でも、別にいいんじゃないの、リハビリと思えば」
「リハビリ?」
「そ、あなたが人付き合いに慣れるまでの間、リハビリと思ってくれればいいんじゃないの?」
ぽんぽん、と僕の頭を撫でるように触れる古西さん、なぜか嬉しそうなのはなんでだろう?でも、そう言ってくれるとありがたい。僕も、ちゃんと覚えておくように頑張ろう。
「うん、ありがとう」
「(・・・・普通にしていると、かわいいのに、中身は中々に兵なのよね実際。もしかして、友達になるの早まったのかしら?)」
なにか、ちょっと引っかかる顔をして頭を撫でてくれた。でも、友達の関係を早期に把握できたのはよかったと思う。
「それで、朝か何を難しい顔してたのよ。そのキーホルダーの飾りがどうかしたの?」
「あー、うん、ちょっと頼まれごとに関わってるかもしれない物なんだ。この飾りの彫り物が何なのか、調べてるんだけど」
結構調べたのに、未だに判明しないので困っている次第だった。どこにでもあるようなイラストだし、どこかの安キーホルダーの一種なのかもしれない。
「頼まれ事って、いつもの落し物探しとかなにか?」
「ううん、今回のは久しぶりの大きなこと。一年ぶりくらい」
「ってことはなによ、大塚の時みたいな妙なことに関わってるってこと?」
大塚君の時―――――それは僕らが入学して数ヵ月後のこと、大塚君が教室内で村八分状態になってしまい、そこに良くないモノに付け込まれた事件の事。当初は、教室内での騒動が原因だったけど、僕と光夜でなし崩し的に解決してしまった事件。その所為で―――――
「ん?なんだ古西、桐嶋と仲いいのか?」
彼は友達ではないけれど、よく話すクラスメイトとして僕と光夜の関係者第一号になってしまった。本人は僕らのことを恩人と勘違いしている。こっちにはそんな風に思ってないのに。
「そ、昨日友達になったのよ。話してみると、案外楽しい子じゃないの」
「だろ、みんな気にしすぎなんだよ。桐嶋も俺らと変わらない普通の高校生だってのによ。なにを気にしてんだか」
たぶん、雰囲気というか人間的感覚の違いだと思う。
「んで、何してたんだ?」
「また事件ですって、あんたのときみたいなね。手がかりがこれだって言うんだけど、あんたなにか知ってる?」
「あん?キーホルダーの飾り?なんだ、この羽の生えた・・・蛇?」
「ケツアルコアトルだと思う」
僕は自分の予想を口にする。けれど、しばらく返事が返ってこなかった。
「・・・・ケツ?」
「なんでそこで止めるのよっ」
妙なところで言葉を止めた大塚君に古西さんが後頭部を強打した。友達が出来ても、大塚君の弄られ体質に変化はないらしい。けれど、みんなとはちゃんと仲良くなっているから、良かったね。
「えーと、その呪文みたいなの、一体何よ」
「このイラストの名前だとおもう。外国の神様にね、羽毛の生えた蛇の神様がいて、それだと思う」
「・・・・相変わらず、妙な知識を持ってんだな」
「ん、ありがとう」
「誉めてないわよ、それ」
あれ、そうなんだ。
「まあいいわ、その口ぶりだと大塚も知らないみたいね。私もだけど」
「だよね、よくよく考えればどこにでもありそうだし・・・・現場で見つけたからって手がかりとは限らないよねぇ」
「現場って・・・・いや、聞かないでおく、下手に関わると痛い目見そうだし」
「別に巻き込みはしないよ、ちょっと手伝ってもらうかもしれないけど」
冗談ではない、人手は欲しい。何せ相手は外側の人間だ、どれだけ僕と光夜が頑張ったって限界はある。この町の人間がしたのか、それとも遠くの人の気まぐれ犯罪か、それすらもわからないのに、この飾り一つだけで何が出来るというのだろう。ほら、もう行き詰った。
「まあ、人に聞くことくらいは出来るがな」
そういうと大塚君は携帯電話を取り出して、カシャッ、と写真を撮って保存した。どうするんだろう。
「桐嶋と八神のおかげで、俺は助けられた。沢山友達も出来た、そりゃもう、数えるのが億劫なくらいにな。だから、情報網はそれなりにある。人づてに聞いといてやるよ」
「ほんと?ありがとう」
「なら、私もそうするわ」
古西さんも同じように携帯で写真を撮った。便利だなぁ、文明の利器っていうのは。
「っていうか、あんたは持ってないの携帯」
「僕?うん、そういうのはちょっと邪魔だから持たないことにしているんだけど、変かな?」
「まさか、持つも持たないも個人の自由。もってりゃ連絡が早いだけの金食い虫。でも連絡が一番大切でもあるがな」
そういうと大塚君は携帯電話をしまった。そっか、そうだよね、いざという時の連絡に手段がないって言うのはキケンだよね。でも、いざってどんなときだろう?
「いいんじゃないの、必要になったら持てば、もってなくても困ってないんでしょ今は?」
「うん、そうだね。連絡する相手なんていなかったし」
それを聞いて、大塚君と古西さんが苦い顔をした。あれ、もしかして今のはまずかった?
「嗚呼、可哀想な娘・・・・。これ、私の番号とアドレス。携帯買ったら登録しなさい。毎日かけてあげるから」
「俺も、とりあえず暇ならいつでもかけてくれていいからなっ」
「あ・・・えっ?ああ・・・・うん。ありがとう」
なぜか、二人とも僕に連絡先の番号を教えてくれた。今の会話でなんでこうなるんだろう?別にかける必要がないから電話は持っていないのに、だって必要ないもの。光夜が持ってたら、買うかもしれないけど。
「あ、そろそろ時間ね。とりあえず、物探しは手伝ってあげる。朗報を待ってなさいな」
「うん、期待してるね」
「任せとけって」
そういうと、二人は最後に携帯を操作してポケットにしまった。あれは噂に聞く一斉送信と思われた。画像も送れるとか?こういうのは便利かもしれない、情報が並列化できる点ではね。
「んじゃ、あとでな」
「お昼も一緒にね」
「うん、またあとで」
友達同士の、そんな十年以上も経験できなかったそれを、さも当然のように僕はしていた。軽く二人に振った手を、まじまじと見つめる。不意に、口元が緩んだ。なんだろう、このわくわく感、すごく、生きてる感じがする。人間って、もしかして楽しい生き物かもしれない気がした。
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