作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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「それにしても、まさかお前が私達を助けに戻ってくるとはな」

 意外そうな顔でメイスンが俺をチラリと見る。

「俺だって、まさかお前らが俺を助けてくれるなんて思っていなかったよ」

「互いに意外だったという訳か」

 俺達はお互いに顔を見合って大笑いした。部屋に笑い声がこだまする。降魔の杖は取り逃したけど、それ以上に何か大切なものを手に入れたような気がするな。

「あ〜あ、でもメビウス様に褒めてもらいたかったなぁ」

 残念そうにぼやくニコル。そうか、こいつらは黒竜騎士団の代表として来ていたんだっけな。任務を失敗した以上、帰りづらいだろうな。

 俺は考えた。よし、ここは一つ、俺様がフォローを入れてやるか。

「気にするなって、どうせネメシス様もメビウス様もお前達に最初から期待なんてしてないだろうし。それに、メビウス様はお前のことなんて眼中だぜ」

 俺達は仲間だからな、これぐらいの軽口は普通だろ。

 俺はニコニコしながら、さらにニコルの頭に肘を置く。背の低いニコルの頭は肘を置くのにちょうどいい。一度こうしてみたかったんだよ。

「調子に乗るなよ、パンタロン……」

「へ?」

 気がついたら空中に俺は浮いていた。見るとニコルが両手をあげて雑巾を絞るポーズをとっている。

「そうそう、さっきの続きをしないとね……」

 ニィっと邪悪なあの笑みを浮かべ、ニコルが引きつりながら笑う。

「ちょっと待て!俺達は仲間じゃなかったのか?!メイスン!ゼルド!助けてくれ!」

 俺は空中でジタバタしながら、メイスンとゼルドに助けを求めた。

「アーメン」

「自業自得だ……」

 二人はそっぽを向く。そ、そんな〜!

「さぁ、お仕置きの時間だよ……フフフ」

 ああ……本当に、今度こそ、俺、死んだかも……。

 俺はあきらめ、目を瞑った。だが、神は俺を見放してはいなかった。

「うっ……」

 突然ニコルが腹を押さえ、その場に膝を着いた。と同時に、メイスンとゼルドも倒れこむ。い、一体どうしたんだ?

 魔法の解けた俺は空中から地上に落ちた。そして、慌てて起き上がるとニコル達に駆け寄る。

「だ、大丈夫か?」

「お、おなかが痛いよ〜」

 ニコルは涙目になりながら腹を押さえている。良く見るとメイスンとゼルドも同じ症状のようだ。三人はこんななのに、俺だけ平気だなんて。あの女に何か魔法か呪いでもかけられたか、それとも変なものでも食べたか……あっ!

「ペロリーメイト……。そういや、賞味期限が三十年も切れていたなぁ……」

「パ、パンタロン〜〜〜!!」

 遺跡内にニコル達の悲痛の叫び声が響き渡る。俺はその声を背に受けながら駆け出していた。勇者への道はまだまだ険しいなぁ。
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