作品名:海邪履水魚
作者:上山環三
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「亜由美先輩、これってどう言う事だと思いマスか?」
幸恵と別れ、水泳部の部室を後にした舞は、――部室にあったポスターとはかなり別れ辛そうにしていたが――眉間に皺を寄せ、大きな目を瞬かせる。「清川先輩の言ってた事がホントなら、アタシたちが出る幕じゃないですよネ――」
彼女は憮然とした口調で続ける。「これなら常磐先生で十分ですよ・・・・!」
網でも何でも持って行ってすくうなり釣なりすればいいのだ。
しかし、そうは言うものの当然納得してい言っているわけでもない。
「ふ〜ん、まさか本気でそんな事思ってるわけじゃないでしょう?」
亜由美も何だか意気消沈気味の後輩をからかうように応える。「舞がそんな事言うなんてねぇ・・・・!」
今回の事件を封鬼委員会で調べる事に決めた背景には、最初の舞の発言があったからこそ、である。
「でも、先輩――。さっきの話、ウソだと思いますか?」
「思わないけど」
亜由美は拗ねる舞の質問にさらりと即答して
「じゃあっ・・・・!」
と、今度は彼女を閉口させる。そんな後輩を一瞥して、亜由美は小さなため息を吐く。
「もう、舞・・・・。話はそんなに簡単じゃないのよ。今までの調べで分かってる事は全部事実だし、さっきの幸恵さんの話も本当の事」
「・・・・!」
「でもこれで決心がついたわ」
亜由美はふうっと息を吐く。
「え、先輩・・・・?」
「今まで向こうの出方を見る為に引き伸ばしていたんだけれど――」
と、彼女はまた目を瞬かせる舞に向かって、やる気みなぎる笑顔を見せて宣言する。「今度はこちらから打って出るわ」
「――っ?」
息を呑む。打って出るとは、今まで全く予想もしなかった言葉である。そんな後輩の驚く顔を知ってか知らいでか、亜由美はその小さな体に秘めた闘志に自ら火を付ける。
「いい、舞! プールの全面除霊をやるわよ!」
その力強い言葉に、舞は改めて尊敬の念を込めた眼差しを亜由美に向ける。
「幸恵さんが放した鯉が今回の事件の必要条件になっている事は間違いないわ。でもそれは原因じゃない」
「?」
「その事実を悪用して、この学校にいる誰かが何かをしようとしているのよ。それを止めさせるには力づくにでもプールを浄化しないと‥‥!」
後輩の眼差しを真っ直ぐに見つめ返す亜由美の表情は不敵。「やる時ゃやるって事を、相手に思い知らせてやろうじゃないの!」
「は、ハイッ!」
「行くわよ、舞!」
「ハイ! 亜由美先輩!」
二人は顔を見合わせ「オーッ!」と、力強く拳を突き上げる。その掛け声に、たまたま側を歩いていた生徒が慌てた様子で二人から離れた・・・・。
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