作品名:RED EYES ACADEMY V 上海爆戦
作者:炎空&銀月火
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………。
………………。
「…ん…?」
ゆっくりと目を開く。視界がぼやけて何も見えない。何回か瞬きしているうちに、ピントがあってきた。
見えていたのは暗い天井。粗末な壁に、安っぽい緑のペンキが塗ってある。
そして斜め上には点滴の袋。そこからチューブが伸び、腕につながっていた。
「お、起きたか?」
野太い声がして、一人の男がドアを開けて入ってきた。その時初めて気が付いたが、どうやらここは船の上らしい。少し地面が揺らいでいる。
身体を起こそうとすると、全身に軽い痛みが走った。
男が慌てて言う。
「おい、まだ起きちゃダメだって。ちょっと待ってろよ。ドクター呼んでくる」
そういって部屋を飛び出す。何がなんだか解らないまま凛はそこに取り残された。
―ここは、どこだ?
アカデミーではない気がする。アカデミーなら輸送手段に船など使わない。恐らく一番手っ取り早くアメリカ本部まで輸送できる空路を使うだろう。
―なら、一体…?
「おぉ、気が付いたのだな」
声と共に入ってきたのは白髪、初老の男性。体温計を差し出しながら、優しく声をかけてきた。
「気分はどうじゃ?まだ痛むか?」
体温計を受け取って、凛は一番聞きたいことを聞いた。
「あの、ここは…俺は一体…」
「俺、じゃなくていいぞ。君の話は金君から聞いておる。事情があって身分を偽っておったのじゃろう?」
「団長から…?」
「そうじゃ。まあ、時間はあるんだし、話しをしようかの」

凛が運ばれたのは三日前。孫と名乗る老人が突然少女を抱えて船へやって来た。
―金 青爛からの手紙を携えて。
「じいさんへ
詳しい理由は言えないが、しばらくこの子を預かって欲しい。この子は私の雑伎団にいた者だが、訳あって経歴を隠していたらしい。それが今、ひどい怪我と疲労で倒れている。爺さんなら放っておく分けないだろう?ま、そんなわけでよろしく頼む。船医だから船に居るんだろう?どっか適当に連れて行ってやれ。今その子が中国に残るのはまずい。なんだかわけが分からないかもしれないが、詳しいことを言うと爺さんの安全に関わるからな、あまり言えないんだ。じゃあな。よろしく。
P.S
これまた訳あって雑伎団は解散しちまった…また世話になるかもしれないが、そんときゃよろしくな」

「そうですか…そんなことが…」
団長は、もしかしたら全てを知っていたのだろうか。いや、何かに追われていると解っただけかもしれない。
―自分が巻き込んでしまった…。
その思いを読み取ったのか、ドクターが口を開く。
「あいつはな。わしの昔の教え子なんじゃ。厄介ごとに首を突っ込むのは昔からの奴のクセでな。まあわしは何度も危ないから辞めろといっておるのじゃが、奴はそれが楽しいらしくてな。今はもう諦めてもうたわい」
「しかし…団長の命が危ないかもしれないんですよ…」
「まあ、あれだけ厄介ごとが好きならば、厄介ごとの中で死んでも本望じゃろうて。まあ、ああいう奴は殺しても死にそうにないがの」
そういってひょっひょっひょと笑う。
面白いお爺さんだ。こういう人間は、珍しいかもしれない。
「ところでこの船、どこへ向かって居るんですか?」
「ああ、それじゃがのう。お前さんをどうするのか、正直わしも困っておるんじゃ。この船は中国から南へ回って香港、台湾、マカオ、フィリピンと行く。そしてそこから大回りして日本へ仕入れに行くんじゃ。…お前さん、どこで降りたい?」
日本、と言う言葉に凛は不思議な懐かしさを覚えた。自分は言ったことのない、しかし明らかに自分のルーツである国。
「そうですね…じゃあ、お手伝いしますから、最後まで乗せていってもらえますか?」
―最後の寄港地、日本まで。

結局一年しか持たなかった。それもまあ、仕方がない。
―きっとこういう星の元に生まれてるんだよ…。
「さてと、残り少ない休息を、たまには満喫させてもらおうか」
凛を乗せた船は、ゆったりと東シナ海を渡っていった。

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