作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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――ゴゥッ!!

 突然、俺の隣を巨大な岩が通り過ぎて行った。その岩はそのまま女に向かって物凄い勢いで飛んでいく。

「ちっ」

 舌打ちをした女は、素早くそれを交わした。岩は勢い余ってそのまま床にめり込む。

「そう簡単にはいかないか」

 パンパンと手についた埃を払いながら、ムキムキマッチョと化した男が現れた。メイスンだった。もしかして、今その岩を投げつけたのは、あなたですか?あなたも相当キャラクター違いますよ?

「みんな、フォーメーションAだ!奴を囲んで波状攻撃をかけるぞ!」

「ラジャー!」

 素早く飛び出したゼルドに答え、ニコルとメイスンが女を囲む。って言うか、ゼルドってこんなリーダーシップ取る奴だったっけ?

 全員ペロリーメイトの副作用のせいだろうか、性格が変わってしまっている。でも、傷の回復だけじゃなくて、どうやら身体能力も上がっているようだから、とりあえず良しとしよう。

「くらいな!『煉獄の塔』!」

 ニコルが両手を勢い良く上げると何本もの炎の柱が女を囲むように飛び出した。炎はゆっくりと回転しながら女に迫る。

「ふん、そんな動きでは虫が止まるぞ」

 女はその場から逃げようとした、が、突然何かに押さえつけられたように動きを止めた。

「な?!」

「『絡みつく影』」

 メイスンから伸びた影が、女の影を捉え動きを封じていた。女は必死に逃げようとするが動けない。炎が迫り、女に焦りの表情が浮かぶ。

「『怒号の雨』!」

 かろうじて動かした腕で印を結び、女は呪文を唱える。女の頭上から突然の大水が降り注ぎ、迫る炎の柱を打ち消した。安堵の表情を浮かべる女だったが、そこに間髪いれずゼルドが突っ込んでいた。

「ゼルドボンバー!!」

 センスを全く感じさせないゼルドの必殺技だが、威力は十分だ。その巨体に勢いよく体当たりをされた女は吹き飛び、壁に叩き付けられた。さらにそこへニコルの放った無数の巨大な氷の塊が追い討ちをかける。

――ズダダダダダダ!!

 次々と女に向かって情け容赦なく氷の雨が放たれた。飛び散った氷の冷気が白い煙となって辺りを覆う。俺はゴクリと唾を飲んで見守る。さすがにこれは効いたんじゃないか?

 冷気が収まり視界が晴れる。これで終わってくれ……俺は祈るような気持ちで一点を見つめる。だが、そこに女の姿は無かった。

「ちぇっ、逃げられちゃったか……」

 ニコルが口惜しそうに舌打ちをする。良く見ると、バッツと黒猫の姿も無かった。女が逃げる際に連れて行ったのだろう。とりあえず、助かった……。

 安堵のため息をつき、俺はその場に倒れこむ。でも、何か大事なことを忘れているような……あっ?!

「降魔の杖は?!」

 メイスンが首を横に振った。

 それでも俺は慌てて辺りを調べて回った。だが、やっぱり無い。そりゃそうだ、そう都合よく置いてってくれる訳が無いよなぁ……。

 落胆のため息をつきながら、再びその場に倒れこむ。

「パンタロンはため息ばかりだね」

 ニコルがクスクスと笑う。その笑いからは今までのような邪悪さは感じられなかった。
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