作品名:転生関ヶ原
作者:ゲン ヒデ
← 前の回  次の回 → ■ 目次
 勝利が、確定し、修複中の伏見で戦後処理をしている家康の元に、敗将の三成らが連れて来られる。
 面会に出かけた家康は、小大名なのに大軍を編成し、互角以上に戦いを挑んだ三成を、褒めた。
 そして、近寄り、小声で、
「戦いの前から、古(いにしえ)の壬申の乱の幻想がでましてなあ。貴公はいかがでしたか」
 三成は、ぎょっとした顔をする。
「やはり……、そなたと拙者は、前世からの因縁でしたか」
 つぶやき、去って行く家康を、三成は、あ然と見続けた。

 公家が、戦勝の祝いを述べに来て、征夷大将軍の任官を勧めたが、家康は口を濁し、秀頼に右大臣の位を贈るよう頼んだ。
 話が済み、下がろうとした公家が、思い出したように、話す、
「文献によると、この伏見に桓武天皇の御陵があるそうですが」
「ほう、何処に」
「不明でして……。是非とも、天下人のあなた様のお力で、調べていただきたく……」
 偉大な帝王の墓すら、時代が経つと忘れ去られる諸行無常を、家康は、感じた。
 
 多くの来訪者の対応を忙しく終えて、夕日が差す頃、家康は庭に出る。秀吉が植えた桐の木を見つめ、
(まだ、忘れ去られず、秀頼は大坂にいる。まだまだ手が抜けられぬか)

 控えている小姓の一人が、西北の山の稜線の盛った部分を指し示し、
「先ほどの、朝廷のお使者の話しに出た、桓武天皇のご陵は、近在の者たちの話しから、あそこだと思いますが」
「さようか」家康は、じっと眺めていた。
(それにしても、桓武天皇は何故、奈良から逃れるように、長岡、京の都へと遷都していったのであろうか。……、そういえば、天智天皇も飛鳥から、大津へ遷都したが、……判らぬ……。それにしても、あの前世の姉・持統天皇、懐かしいというより、どこか惹かれる魅力を感じたが、……ああそうか、大友の皇子は、姉に惚れていたな、ははは)
 家康の笑い声に、小姓が、
「上様、どうかなされましたか」
「ああ、思いだし笑いだ、遠い昔のな」
 
(ご陵の向こうが、京の都、千年の都か、……わが江戸も、天下に君臨し、長く太平の世が続いてもらいたいものよ)
 カラスの鳴く夕暮れの空を、家康は見上げていた。
    
             完



← 前の回  次の回 → ■ 目次
Novel Collectionsトップページ