作品名:雪尋の短編小説
作者:雪尋
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「理不尽な戦争を回避する方法」



「隣国と戦争をすることにした。負けるわけにはいかん」


 相談役である私を呼びつけた王様は、いきなりそんな事を言った。


「戦争って……なんでですか? 隣国とは割と友好的にやってきたじゃないですか」

「天候が悪くてな、このままだと大凶作が引き起こされる。つまり飢饉だハラペコだ」


 私は少しだけ首をかしげつつ、嫌味を全力で隠しながら答えた。


「備蓄食糧があるでしょう。それに貿易だって出来る。食料を輸入しましょう」

「もちろんそれも検討した。だが、隣国を制圧した方がはるかに話しは速いし、確実だし、領地は増えるし、労働力も手に入るし、財産も没収出来る。良いことばかりだ」


「それは戦争に勝てば……の話しでしょう?」

「そのためにお前を呼んだのだ。さぁ、隣国に必勝出来るような方法を考えろ」




 私は自室に戻って頭をかかえた。

 時代錯誤の戦争バカめ。戦争で自国が疲弊することを分かってない。

 飢饉の可能性があるのに戦争?

 食料は無くなるし、労働力の大半が戦争にさかれるし、兵士は死ぬのに!

 確かに勝てばメリットはあるが、負けた時のデメリットが大きい。

 そしてコレが一番重要なのだが、


 ――――――戦争をふっかけるだけの大義名分が我らの国には無い。



「つまり私が考えるべきなのは、どうやってあのバカ王様を止めるか、ということか」

 飢饉が起きるかもしれないから戦争しよう、という王様の発想。

 ならば、食料がたくさんあれば彼は思いとどまるだろうか? いや、ないな。

 領地とか財産がうんぬん言ってたから、きっと隣国を前から狙っていたのだろう。

 大国の王になりたいという野心。やっかい極まりない。


「むぅ……戦争を止めるために王様を暗殺する、なんてのは流石に無いしな……」


 困った。あのワガママ王のことだ、説得しても聞いてはくれないだろう。

 なにせ彼は「隣国に必勝出来る方法」をお望みなのだから。

 そして、戦争に勝つことはさほど難しくはない。


 いま我が国の技術部はダイナマイトの開発に成功したからだ。

 あれさえあれば隣国など文字通り木っ端微塵だろう。

 だが、ダイナマイトの存在はあえて私が隠している。

 あれは元々工事に使うための物で、戦争用ではないからだ。

 使えば非道な結果になる。敵意の無い隣国には使いたくない。



 どうすれば戦争しないですむ。

 どうすればあの王様を説得出来る。


 いや、待て―――。


 そして私は、電撃的に閃いたのだった。


 ダイナマイトを隣国に送りつければいいのだ!




「王様。先日の件ですが……ご報告が。
 隣国がダイナマイトなる武器の開発に成功したようでして。
 どうやら我らの技術が盗まれたようです。ダイナマイトの性能ですが、以下略」

「な、なんということだ……。
 そのような恐ろしい武器が隣国に渡ってしまったのか……!」


 王様は頭をかかえた。
 勝ち目が無くなったこと、飢饉のこと、彼の悩みが更に深くなる。


「ですが隣国は戦争の構えを見せておりません。
 ――――――今の内に恒久的な和平条約を結ぶべきかと」

「う、うむ。そうだな。お前の言うとおりだ。なんとかして和平条約を締結させろ」



 私は満足げに微笑み、自室へと戻った。条約の草書をまとめるためだ。

 三日がかりで完成させた条約提案書。それを隣国に送ると返事はすぐに来た。



『我らにはダイナマイトがある。
 和平などしない。戦争だ。お前の国を全てもらい受ける!』



 返事を読んだ私は失笑した。



 隣国に送ったダイナマイトのサンプルと、その製造方法には雷管データを省いてある。雷管とは爆破をコントロールするのに必要な部品。


 雷管が無ければダイナマイトなど使いづらい爆弾でしかない。


 戦争に利用することは出来ないだろう。

 つまり戦争になれば、勝利するのは我が国だ。


 王様が私に望んだのは必勝方法。そして、私が望んだのは。



 「王様―――大義名分が得られましたよ」





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