作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜
作者:光夜
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 「あ〜〜しんどかった」
 着替えを済ませた孝太は机に突っ伏してそう言った。隣では唯も同じように腕を伸ばしていた。
 「私もなんだか気疲れしちゃった」
 1時限目からこれでは残りの授業を乗り越えられるか少々心配だった。
 「そう言うな、誰も怪我しなくて良かったんだから」
 窓際で次の授業の準備をしているシンが言った。
 「まあそうなんだが」
 孝太もそれは解っているので強くは言わない。孝太と唯の呼ぶ声がしたので振り返った。二人とも顔が横になっているので風景が倒れている。だが疲れている二人は気にしなかった。孝太は力ない声で返事をした。
 「どうした唯」
 疲れている証明として瞑っていた目を開けた。
 「さっきはありがとう孝太」
 目を開けた瞬間飛び込んできたのはソフトボールの件についての唯のお礼と笑顔だった。それを見たとたん孝太は目を思い切り開いたまま固まってしまった。ようやく絞り出した言葉は「あ、ああ」だけだった。それ以上言葉が続かなかった。じっと唯を見たままだった。
 (なに焦ってんだ俺、唯の顔なら毎日見ているだろうが、体育の後で疲れたからか?)
 ごん、と頭を軽く机にぶつけた。
だが頭から今の笑顔が離れなかった。もう一度頭をぶつけた。すると教室のドアが開いた。孝太はそちらを向く。こんどはローゼンの笑顔が目に飛び込んだ。何か言おうとしたが「どうしました?」このローゼンのいつもの態度を目の当たりにして思いとどまったように口を結んで「別に」と不機嫌そうに言って前を向いた。ローゼンは何事も無かったように席つく。その様子をシンは気になったのか孝太に聞こうとしたが多分不機嫌なのだろうそんな雰囲気が漂ってくるのでローゼンに聞く事にした。
「何かあったのかローゼン、孝太の奴さっきから変だぞ」
 孝太は聞こえていないふりでそれを聞いた。
 「いえ、何もありませんよ。多分悩み事でもあるのでしょうねそれも相当理不尽な」
 どう言うことかシンには検討もつかない。何が理不尽なのだろう、そんな顔で孝太を見た。
孝太は不機嫌なまま机に突っ伏していたが声が聞こえ目を開けた。
「孝太、大丈夫。何か悩みでもあるの」
 唯の顔があった。余りにも突然すぎて孝太の心臓が脈打つ。ドクン、とまるで祭りの太鼓を叩いたときのような大きな振動も感じるほど血液の塊がうごいた。驚きのあまりガバッと体を起して唯を凝視する。それにあわせて唯も体を起す。後ろでは何事かとシンと葵がこちらを見ていた。
 「どしたの孝太?熱でもあるの」
 唯の言葉に孝太は反応しない。聞こえていないようだった。変わりに後ろにいるローゼンが言った。季節の変わり目ですからねと。
 「そうだよね、大丈夫孝太」
 そういうと唯の手が伸びてきた。多分熱を測るためだろう。
 だが今の孝太にそれは禁物だった。がた、と勢い良く立ち上がる。その反動でイスが倒れ大きな音を立てた。その瞬間教室中の視線が孝太に向いた。
 「孝太?」
 呆然となって立っている孝太を見ながら唯は名前を呼んだ。だが次の瞬間孝太は入り口へ向かって走り出した。入り口で教師とぶつかった。どうしたんだ慌てて。そう聞いて来た。気分が悪いんで保健室に。そう言ってまた走り出した。そうして孝太が出て行った後授業が行われた。





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