作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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「ちょっと待ったー!!」

 部屋に飛び込むなり俺は女に向かって叫んだ。ニコルの首を締め上げ、止めを刺そうとしていた女が振り返る。何の感情も持たず、光の無い淀んだ目で見つめるその姿に、俺は一瞬怖気づきそうになったが、リアンのことを思い出し頭をブルブルと振る。

「ば、馬鹿……、なんで戻ってきたんだ……」

 口から血を吐きながらニコルが呟いた。メイスンとゼルドも驚きの表情を浮かべている。そりゃそうだ、俺が戻ってくるなんて思ってもいなかっただろうからな。

「今更お前が戻ってきても何も変わらん。殺されるぞ……」

 消え入りそうな声でメイスンが言う。

「そんなこと一番分かっているのは俺だよ。でもしゃーないだろ、来ちまったもんわよ!」

「本当、馬鹿な男だ。そのまま逃げてしまえば助かったものを……。正気の沙汰とは思えんな」

 そう言って女はニコルから手を離すと、ゆっくりと俺の方へと向き直る。俺はゴクリと唾を飲み込んだ。メイスンが俺にかけた呪文の効果はとっくに切れている。だが俺の足は震えてはいなかった。俺は……俺は、みんなを助けるんだ!

「俺の……俺の仲間に、こ、これ以上手を出すんじゃねぇ!こ、これ以上やるなら、た、た、ただじゃおかねぇ!!」

「ほう、ではどうする気だ?お前の力でこの私と戦おうとでも言うのか?笑えん冗談だ」

 女は邪悪な笑みを浮かべ、無防備に俺の方へと近づいてくる。俺はブルッと武者震いをした。だが、もう俺は悩まないって決めたんだ。

 俺は背中のリュックから丸い玉を取り出すと、飛び出している導火線に火をつけた。

「ふふん、何だそれは?爆弾でも私に投げつけるつもりか?面白い、試してみろ」

 女は両手を広げて待ち構えた。なめやがって、そんなことを言っていられるのも今のうちだ。

「そんなにお望みならくれてやるぜ!」

 俺は玉を女に向かって投げつける。女はニヤリと笑うと、ブンと手を振り真空波のようなものを玉に向かって繰り出した。投げつけた玉は空中で真っ二つに分かれる。女は勝ち誇った表情を浮かべた。

「ふん、くだらんな。そんな物でこの私が……ハ、ハックシュン!」

 真っ二つに割れた玉から飛び出した大量の粉を浴びた女はクシャミを繰り返す。

「な、なんだこれ……クシュン!お前、一体何を……クシュン!」

「引っかかったな!その玉にはなぁ、大量のコショウを詰めておいたんだぜ!爆弾に見せかければ焼いたりはしないだろ!」

「お、おのれ……クシュン!」

 女がクシャミをしている間に、俺は懐からペロリーメイトを取り出すと、ニコル達に投げて渡した。

「それを食うんだ!」

「だが、これは賞味期限が……」

「死ぬよりはマシだろ!」

 躊躇するメイスンを俺は一括した。強気の態度の俺に驚いたメイスンだが、一瞬笑みを浮かべるとそれを口に放り込んだ。ニコルとゼルドもペロリと食べる。

――パキイイイイン!

 氷の砕け散る音が部屋に響き渡る。

「俺様、ふっかああああつ!パンタロン、よくやった!」

「な、しまった!?うわっ!」

 慌てて振り向いた女が、ニコルの放った巨大な火の玉の直撃を受けた。一瞬炎に包まれたように見えたが、すぐに何かの呪文を唱え火を打ち消す。だが、それなりにダメージがあったのか表情に余裕が感じられない。

「クッ、こんな奴らに……」

「かかってきなよ、お・ば・さ・ん」

 体全体から灰色のオーラを出しながら、ニコルが笑みを浮かべちょいちょいと手招きをして挑発する。ペロリーメイトの影響なのか、それとも興奮しているだけなのだろうか、ちょっとキャラクターが違うような……。
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