作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜
作者:光夜
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 体育の授業は隣のクラスと合同で行われる。体育教師は二人いて男女混合で進められる。
 「今日はバレーボールをするから準備しろ」
 出席点呼のあと教師はそう言って生徒達に指示を出した。シン達は協力のもとテキパキと準備を終わらした。チームは簡単に二つに分けられた、出席順に半分半分となる。コートに入ったシンはチラリと外を見ると制服のままのローゼンがいた。「体調不良なので」そう言って見学にまわっていた。まあそれは嘘だろうと言うのはシンには一目でわかったが気にしなかった。すると隣から名前を呼ばれた。葵だ。「よろしくね」そう言った。ああよろしくそういい返した。孝太と唯は名前から必然的に敵のチームとなっている。
 「頑張ろうね孝太」
 唯は元気に言ったが対する孝太は上の空で「そうだな」と言っただけだった。それを見て唯は怪訝な表情を見せたが開始の笛で前方に目をやった。
 「おら!」
 孝太のスパイクで弾かれたボールが反対のコートに勢いよく落ちた。ゲーム開始と同時に孝太は積極的にネットへ走りボールを叩いていた。そのたびに唯は歓声を上げた。どうやら心配するほどの事は無かったようだ。また孝太のアタックが響いた。サーブチェンジ、教師がそう言ってシン達のコートへボールを渡した。今シンと葵はコートにいない。このスポーツは最大人数は九対九人で行われるローゼンがいなくともクラスの半分は十五人。だから一定の時間ごとに入れ替えを行っていた。いまは応援の側にいるということだ。「頑張れよ青山」シンが応援したのは同じチームメイトの銀だった。青山と斑鳩とでは出席番号が近いので同じチームにいる。シンとの決着をつけたい銀にとってそれは不満以外の何者でもないが。今は置いておこう。今サーブは銀が行う所だったその不満をぶつけるかのように銀はボールを構えながら敵である孝太に言った。
 「藤原君、キミの勢いもここまでだ。僕の必殺サーブで巻き返してあげよう」
 そう宣言した。隣で見ていた薫は「なんだそりゃ」と呟いた。
 「必殺・・・・必ず殺すのか?」
 そんな言葉も届かず、銀は助走をつけジャンプをしてボールを叩いた。力強くボールはネットを。
 「何が必殺、っだよ!」
 越えなかった。ボールはネットを越える前に孝太に返された。
 「のわっ・・・!」
 悲しいかな、弾かれたボールは真っ直ぐ跳び銀の顔に命中した。ばたっとその場に倒れた。
 「さすが藤原・・・君」
 がくっ、と銀は薄れて行く意識の中で薫の「銀、あんたバカ」と言う言葉が聞こえた気がした。
 「あーあ、倒れちゃった。じゃあ私が行こうかな」
 そう言って葵は立ち上がった。まあこの分だと孝太のチームが勝つかな。そう思った。なにぶん点差は十点もある。それにシン自体はこのゲームを楽しんでいるので勝ち負けにはこだわっていない。
 先が見えたシンは後ろを向いた。隣のクラスのほうだった。こちらも担当の体育教師がおりゲームを見守っていた。数人がポジションにつき中心にはグローブをはめ構える生徒。前方にはバットを持ちすぐ後ろにはしゃがんでグローブを構える生徒。さらに後ろには審判と思われる生徒が一人。ピッチャーがボールを投げボールはキャッチャーのミットに納まった。ストライク、そういう声が届いてきた。野球と思ったが投げたボールが一回り大きい所を見るとソフトボールだと言う事がわかった。
 「あっちも男女合同か」
 添えつけのボードを見るとツーアウトだった。
 「ストライク、アウト」
 審判が言った。ストライクを三つ取られたバッターと交代で控えていた次のバッターが出てきた。だがその姿を見たシンはこの人でチェンジと思った。今のバッターは細身で何となく知的な感じがした。どう見ても文学的でバッターには向いていなさそうだった。まあいいかと自分達のゲームに目を戻した。シンは自分達の点数ボードに目をやるとこちらもチェンジだなと思った。バレーボールなのでコートチェンジだが。
 「なんだもうこんなに点を取られていたのか」
 先ほど自分の必殺サーブに見事やられたスポーツ神経抜群の銀が抜けた事によって戦力は落ちるとシンは解ってはいた。だからと言って少し目を離したとたん十五点差になっている上に孝太のチームはあと一点で勝ちとなろうとしているのには少々溜め息が漏れた。
 葵の健闘も空しく最後のサーブは孝太だった。
 「・・・・」
 ボールを数回バウンドさせ構える孝太。シンは自分の出番はないなと思い隣の授業を見ることにした。どうせこちらは孝太の勝ちなのだからと。隣ではちょうどピッチャーがボールを投げる瞬間だった。バッターは先ほどの細い生徒だ。不慣れなのか彼の顔は緊張の色が見え周りからは打てと煽られている。何か厭な予感がよぎった。だがボールは投げられた。彼はタイミングを合わせて力いっぱいバットを振った。かきんと音だけは気持ちが良かった。やはり彼は不慣れだった、打った衝撃でよろけている。ボールは弧を描いて予想だにしない方へ跳んだ。孝太達のほうだ。
「なっ」
 信じられないものを見るかのようにシンは声を上げた。ボールは真っ直ぐ孝太たちへ飛んでくる。厭な予感は当たった。
危ない。隣のクラスを受け持っている体育教師がこちらに叫んだ。それに気づき全員がそちらを見た。ボールの落下地点はコートの真ん中。唯がいる。避けなければ間違いなく当たる。誰かの危ないと言う声と共に唯が振り向いた、だが既にボールは目の前まで来ていた。反射的に唯は目を瞑った。だがボールは当たらなかった。咄嗟に突き出された手によってキャッチされている。手の主は孝太だ。離れた所でローゼンがお見事と言っては拍手をした。
「いっっっっ痛〜〜・・・」
 巨大なソフトボールを素手で取ると衝撃は全て手首に来る上衝撃は予想以上に大きい。反対の手でボールを持った手首を掴みながら孝太は顔を伏せて震えた。
「孝太・・・」
 と唯は心配と喜びの声で孝太を呼んだが本人はその言葉に耳を貸してはいない。ただでさえ腹が立っているのにこの痛みが重なって不機嫌度はマックスに達している。涙目で孝太は顔を上げた。ぎんと言う効果音が似合いそうな目つきでローゼンを睨んだあと隣のクラスへ向いた。
「ふ、ざ、け、ん、なああああああああ!」
 叫びながらプロもビックリの綺麗なフォームでさらに驚くであろうスピードでボールは直線的に投げられた。スピードガンがあれば日本記録が出たに違いない。
ズバン、轟音を轟かせたボールは見事離れた所にあるキャッチャーミットに入った。何やらキャッチャーが痛がっている。その後ろで呆けたように見ていた審判がストライクサインを出す。多分ストライクとも言っている。
「しゃああああ!」
 ガッツポーズをして孝太は叫んだ。丁度そのとき授業終了を告げるチャイムが鳴った。




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