作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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「リ、リアンじゃねーか?!お、お前どうしてここに?!」
俺は慌てて近寄ろうとした。
――ズドン!
突然足元に放たれた銃弾に驚き俺は飛び跳ねた。
「誰!?それ以上近寄らないで!」
銃を構えた女が険しい表情で俺を睨む。俺は両手を上げ敵意の無いことを示した。
「あ、妖しい者じゃないよ、俺の名前はパンタロン。そいつの連れなんだ……」
「リアンの……?」
女は俺を見定めするかのように見ている。
「オリオン村からこの遺跡まで一緒に来たんだ」
「そう、あなたがパンタロンなの。私の名前はアイラ。あなたのことは、リアンから聞いているわ」
そう言うと、アイラは銃の構えを解き背中に抱えた。俺は小走りに近づく。
横たわるリアンの胸には大きな剣が突き刺さっていた。ドクドクと大量の血が流れ、息も絶え絶えなリアンは誰が見ても重傷だと言うのが分かる。
「な、なんでこんなことに……」
俺がそう言うとアイラは涙をこぼしながら静かに話し始めた。
「リアンは……リアンは私をかばって刺されたの。死体が突然動いて襲ってきたのを気がつかない私をかばって……」
どうやらニコル達が打ちし損じたアンデッドがいたらしい。それに襲われたアイラをリアンはかばったって言うのか……。
その時、俺の手を誰かが掴んだ。リアンだった。
「……お兄ちゃん……来てくれたんだ……」
今にも消え入りそうな笑顔を見せるリアン。その笑顔が居た堪れなくて俺は思わず涙ぐむ。
「……でも、ごめんね……僕、何も役に立てなかった……。お兄ちゃんみたいな勇者にはなれそうもないよ……」
「そんなことねーよ!お前は……お前はこの人を救ったんだろ?!人を救う勇気のある者を勇者って言うんだ。お前は立派な勇者だよ!」
俺の言葉にリアンはニコリと微笑む。
――お前は勇者を守る盾となれ。
リアンですら自分の身を犠牲にしてまで人を救っている。なのに俺は自分の身が可愛くて仲間を見捨てて逃げて……。
俺は自分の情けなさに涙が出てきた。何が勇者パンタロンだ。ただの臆病者じゃねえか。一生臆病者で終わるくらいなら、リアンのように一瞬でも勇者のような輝きがある人生の方が価値あるぜ。
メイスンのかけた魔法の効果がまだ続いていたのだろうか。俺の中に今まで感じたことの無い感情が湧き出てくる。このまま終わりたくない。このまま終わってたまるか。
俺は懐から四角い小さな箱を取り出す。そして中身を開けリアンに手渡した。別の部屋で見つけた『ペロリーメイト』だ。何かの役に立つかもしれないと思い、あの時何個か持ってきたんだ。
どんな重症も治すと言われている『ペロリーメイト』。賞味期限が三十年も切れ、しかも人によってはどんな副作用をもたらすか分からない。だが、死ぬよりはマシだ。
「パンタロン、あなたそれをどこで手に入れたの……?」
『ペロリーメイト』を見て女が驚きの表情を見せる。
「別の部屋でちょっとな。リアン、それを食べるんだ」
リアンはコクリと頷くと震える手でそれを口に運んだ。俺はリアンの胸に刺さっている剣に手をかけ、リアンが飲み込むと同時に一気に引き抜く。
一瞬リアンは苦痛の表情を浮かべたが、すぐにきょとんとした表情に変わった。まるで何事も無かったかのようにリアンは上半身を起こすと、自分の胸に手を当てる。
「な、治っている……!」
「リアン!」
アイラは泣きながらリアンに飛びついた。
「良かった、本当に良かった……!」
大粒の涙を流しながらアイラはまるで子供のように泣きじゃくる。リアンはちょっと照れた表情を浮かべながらアイラを抱きしめた。
「さてと、アイラ、リアンのことは任せたぜ」
「ど、どこへ行くのお兄ちゃん……」
俺はリアン達に背を向けながら片手をあげる。
「勇者は忙しいのさ。俺にはまだやり残したことがあるんでね」
俺はそう言うと駆け出す。そうさ、このままじゃあ終われねぇ。こんな俺なんかを助けてくれたあいつらを今度は俺が助ける番なんだ。
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