作品名:吉野彷徨(V)大乱の章
作者:ゲン ヒデ
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大海人が桑名に留まっているころ、尾張国司・小子部キチヒは、地元の豪族らに兵を召集
させた。桑名の大海人を襲うためである。
ところが、集めた豪族等に計画を話そうとしたとき、舅の『さすがは、我が婿殿、大海人皇子の味方をして、大功を得ようとなさる。時勢を読むのに長けておられる』の言葉に驚いた。
「皆さまは、大海人がわに?」
「異存はありませんぞ、なあ、皆様方」舅が、みなを見渡せば、
声をかけられた諸将「大海人皇子のために! 大海人皇子のために!」と、剣を振りかざした。
やむなく、キチヒは、二万の軍を率いて、不破へ行った大海人に帰順する。
尾張の大軍を得て、近江朝廷側を次第に圧倒していった大海人軍は、瀬田の橋の合戦の勝利で趨勢を決した。
瀬田の合戦に出張った大友帝は、味方の兵たちが逃散していくなか、逃げ落ちていった。そして数人の舎人だけが献身的に従っていた。その中に物部連麻呂がいた。
やがて、不破の後方の野上の行宮で、各地の勝利の報告に満足の笑みを浮かべていた、大海人に、大友帝の首が届く、……
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