作品名:探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常
作者:光夜
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「調子に乗ってるな、あの転校生」
高等部の校舎裏、城ヶ岬と取り巻きの二人が放課後の時間になりだべっていた。話題は当然桐夜 輝のことだった。転校初日からの挑戦的な態度と自分を小馬鹿にしたそぶりに城ヶ岬は苛立っていた。
「最初のうちだけっしょ?そのうち嫌になって泣き寝入りしてくるって」
答えたのは取り巻きの一人である佐々木だった。にやにや、といやらしいその笑い方は誰が見てもそうだが、特に女子からは不評の声が上がっている。ほとんど痴漢をしてくる中年のオヤジと同じようだと、そんな声もある。
「んなことを気にしちゃいねぇよ、あの態度が気にくわねぇ」
はん、と鼻で笑うように苛立ちを見せる城ヶ岬は確かにつまらなさそうな顔だった。だからといって何かが変わるわけでもない。
「っていうか、なんなんだかな、アイツ?シュウに噛み付いてきたとおもったら、クラスで一番とろい砂野なんかかばいやがってさ。あーあ、召使が減っちゃったよ」
城ヶ岬のことをシュウとニックネームで呼んで、残念そうに呟いたのはもう一人の取り巻きである田島だった。口調は城ヶ岬や佐々木よりもおとなしめであるが、陰湿な手口は三人の中でダントツだった。先ほど砂野を水浸しにしたのはなにを隠そう彼だ、その陰湿さは教室の中でも群を抜いており、彼だけは怒らせたくないといわれている機嫌を傾けさせれば、笑顔で殺してくるとまで言われている。
「いんじゃねぇの、召使程度。今も一人いるし」
ほら、と佐々木はあごで遠くを示すとコンビニの袋をもった見覚えのある男子生徒がやってきた。
「か、買ってきたよ・・・・」
「遅ぇんだよ、クズ」
佐々木はそういうといらだたしげに男子生徒の脇腹のつま先を蹴り入れた。痛みに前かがみになり膝を付き、勢いで袋を落としてしまった。それを見て田島はあーあと呟いた。
「だめじゃないか、卵の殻にはいった卵プリンも頼んでいたんだよ?あれは卵の殻を割って食べるのが醍醐味なんだから、おとして割れたらどうするのさ?あれ?聞いてる、ねぇ聞いてる伊藤君?生きてる?」
心配する方向を間違えながら田島は伊藤と呼んだ生徒へ近づくと、脇腹を押さえていない手ふみつけた。
「ぎ、あぁぁぁ、うぎゃああっ」
さらにはぐりぐりと、地面と靴の裏のゴムとの間でてをすりつぶし始めた。
「ああ、生きてた生きてた」
「いぎゃぁっぁつ、ああああ、いだあああぅぅぅ・・・・っ」
ぎりぎり、ざりざり、皮膚と砂がこすれて壊れていく音が聞こえていく。田島はというと、何のこともない花でも見下ろすような顔でそれを平然とやっていた。
「おい田島、召使傷めつけてどうすんだよ、傷が残ったら文句いわれるだろうが」
城ヶ岬はつまらなさそうに田島を咎めた。伊藤を心配してではない、見ていてつまらないし、傷が残ればさすがに問いただされてしまうとそういうのが面倒で声をかけたのだから。
「はーい」
田島は見下ろす花から視線をそらすようにその足をどけた。伊藤は起き上がると脇腹よりも痛む自分の手を確認した。
「あーあ、伊藤君が召使なんてつまらないよ。やっぱり砂野君じゃないと、要領も悪いし使い甲斐もないね」
コンビニの袋を取り上げると中身を確認しながら自分の位置まで戻る田島。佐々木はいつまでも手を確認している伊藤を睨み見下ろした。
「ったくトロいんだよおまえ、もういいからどっかいけ」
そういって蹴る真似事をして伊藤をどこかへと退散させた。
「確かに、伊藤じゃ要領悪いな。っていうか田島、なんで砂野なんだよ。今まで聞かなかったけど」
「なんでって、だっていじめて下さいって顔に書いてあるし、変に要領がいいから逆に苛立つんだよね、ああいうの」
「この、ドエス」
「イエス、ドエス」
くだらない冗談を口にして田島は卵プリンとスプーンを手にして定位置に座りなおした。
「それで、どうするのさ、シュウ?我慢できないんでしょ、あの転校生と砂野君」
「当たり前だ。砂野はそのまま使う。問題のあいつは、ともかく集中的に攻撃するしかねぇ」
「つーかよ、机の落書き消すとか準備よすぎねぇか?」
「ああ、それはあるね」
「け、バカにしやがって、絶対に服従させてやる。結局人間、金と権力があれば何とでもなるんだよ。俺に逆らったらどうなるか、見せてやる」
かかか、と気分の悪くなるような笑いをして城ヶ岬は伊藤の買ってきたパンにかじりついた。
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