作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜
作者:光夜
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本日の1時限目は体育である。朝が苦手な人種にとって拷問同然と言わんばかりの内容である。幸いこのクラスにはそう言った人間は皆無なので倒れると言う事は無いが面倒くさがる奴はいる。孝太もその一人だった。
「なんで朝から体を動かさなきゃなんねえんだ、普通三時間目とかだろう体育ってのは。なあ斑鳩」
同じく着替えているシンに賛同を求めてきた。それを軽く「しらん」一言であしらった。孝太は気にする事無く着替えを進める。一々気にしていたら身が持たないことはシンも知っている。なにせ毎回同じ事を言ってくるのだから。
「孝太、いい加減諦めろ。文句を言った所で時間割が変わるはずも無いだろう」なだめるような声で孝太に言った。シンもいい加減同じ台詞に嫌気が差してきたからだ。だが孝太はにやりと笑って言った。
「いや、わかんねえぞ。クラス全員でストでも起せば参った教師達が条件を飲むかもしれないぜ」
何を無茶なと言わんばかりの顔で上着を着替えたシン。実際そう口にしている。
「そうですよ藤原君、今更予定を変えろといわれてもそれを飲む人はいないと思いますよ」
離れた所から聞いていたのかローゼンもシンの味方となって孝太に言った。孝太はそうですかとアメリカン風に肩を空かしていった。
「じゃあ諦めよう。その代わりローゼン。おまえの事を聞くぜ。この前のことだ」その言葉を聞いてシンの動きが止まった。ローゼンは何のことでしょうと言った。
「何のことじゃねえよ。この間危険かもしれない箱を置いてさっさと帰っちまったことだよ。一応お前は帰ってきたけどな、何処へ行っていたのかも教えてくれないときたものだ。それを答えてもらおうかな、俺も斑鳩も気になってるんだよ」
着替えの止まったシンはじっとローゼンを見ている。俺も知りたい、目がそう言っている。だがローゼンは「それは無理です」と軽く流した。シンはまたかと言う顔で着替えを再開した。いつもならここで孝太がそうかよとぶっきらぼうに話を切るのだが今日の孝太はそれで納得しなかった。ローゼンの前まで来ると周りに聞こえないように小声で言った。
「いいか、初めに言ったけどな俺はまだお前を信用していない。目的は一緒かもしれないけどな、この前俺をエサにしたことは良く憶えているんだ。結果的に勝っただの負けただのそう言った判定は決まらなかったがそれは置いておこう。俺が言いたいのはおまえは組織の事はおろかお前自身のことも教えてはくれない、そんな奴をどう信用しろって言うんだ、できるわけ無い。斑鳩は気にしていないから俺もそれについて来た。けどなそろそろ限界だ。いい加減お前の事ぐらいは教えろ」
孝太は怒った風でもなく条件を出すような口ぶりでローゼンに言った。言い終えると孝太は顔を離した。
「・・・・そうですか」
唐突にローゼンから表情が消えた。孝太はどうしたのかと思った。今のローゼンにはあの笑顔は無い。能面のような何か思いつめたような表情があった。ローゼンの目が孝太を見た孝太は一瞬息を飲んだ。凍りつくと言うよりも緊張に近いものをローゼンの目から感じた。ローゼンが思いつめた表情を解くと孝太の耳に近づいて言った。
「え、お前今なんて」
孝太は何を言ったのか信じられないような顔でローゼンを見た。顔を離したローゼンにはいつもの笑顔が戻っていた。先ほどの思いつめた顔など存在しないかのような錯覚にとらわれた。孝太は幻覚でも見ているような目でその笑顔を見つめた。「いつまでやってるんだ、行くぞ」
入り口の方でシンの急かす声で孝太は回りを見た。誰もいない。もう全員外に行ってしまったようで教室にはシンと孝太、ローゼンしかいなかった。「では、行きましょうか」
そう言ってローゼンも教室を出て行った。それを見送ったシンは孝太に目を移した。「どうした」そう言っている。「なんでもねえ」短くいって足早に教室を出た。シンはわけがわからずその後に続いた。孝太は「なんだよそれ」そう言いながら頭を掻いて階段を下りた。
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