作品名:RED EYES ACADEMY V 上海爆戦
作者:炎空&銀月火
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「彼女…五番目の本物には、“捕獲”命令が出ている。…彼女に手を出す者に、容赦はしない」
 五番目の本物、と言う言葉に、凛は乾いた笑みを浮かべた。…たとえ過去の親友であろうと、今は作戦の目標でしかないのだ。
「司乎。あんたの両親を殺したのは、アカデミーの人間なのか」
「ああそうさ。忘れるかよ。三年前、俺が一三の時だ。いきなり屋敷にあいつらが侵入してきた。それで皆殺しだ。だが、当時としては最新の警備システムが導入されていた。…何故、簡単に侵入できたと思う?」
何かを押しとどめているような、掠れた声。その奥にあるどろどろした物に対して、凛は何も言えなかった。
「仲間が、居たんだ」
その先は、聞きたくない。アカデミーの使う常套手段。
「あいつらは、使用人として一人の老人と一人の子どもを俺達に雇わせていたんだ。…俺の友達だった奴も、緋眼を持っていたさ…」
「あいつは、俺も殺そうとした。俺は、あいつを親友だと思っていた。なのに、あいつは俺を暗殺目標としてしか見ていなかったんだ!」
「アカデミーってなんなんだよ! うしてここまで人間の心を踏みにじっていくんだ! 配したいならしたらいい。普通の人間より優れているならそれも必然だ。だけど、どうして…」
なにも、言えない。アカデミーは、人の心を、命を、軽視する。それどころか、自分たちの仲間であるはずのキメラさえ、駒としか見ていない。そういう場所なのだ。
「…下等生物が、何を言うか」
突然、声が割り込んだ。凛と同じ声。しかし、明らかに別の人格を含んだ冷たい音。
「なんだと…」
司乎の目に、怒りが満ちる。刀を持つ手が固く握りしめられるのを見て、凛は叫んだ。
「やめろ! んたが叶う相手じゃない!」
「黙れ! 詮あんたもバケモノだ! 達人間のことなんか、何も解っていないくせに!」
―何も解っていないくせに。
違う。私はアカデミーとは違う。その証拠に一年間人間と共存してきたではないか。人の心を踏みにじったりしない。人間を自分たちと変わらない存在と認識している…。
―本当にそうか?
心の中の自問に、凛は断言できなかった。自分はアカデミーから離れた者だ、と。
―お前は、知らなかっただけだろう?そして、知らないながらに感じていたはずだ。自分と他人の能力の差を。そしてそこに優越を感じていなかったと、断言できるか?高すぎる能力に自分なら何でも出来ると、見下していなかったか?
―所詮お前もアカデミーで育ったレッドアイズ。考え方など変えられない。
「副司令官。…彼に対する処置の命令を」
天井の上から、レシカが言った。感情を押し殺した声。彼女も、動揺しているのだろうか。
「…射殺。無理なら私が出る」
それを聞いて、黎の周りの隊員達がざわめいた。
「…そんな!何も副司令官殿が出なくても、我々でなんとか…」
「あれを見ろ」
黎が指さした先には、レイファンの死体。
遠目でも解る。
彼は、反撃も出来ず一撃でやられていた。
「レシカ・アンドリュー。お前に射殺命令を…」
「ぐだぐだうるせぇ!!」
司乎が叫び、飛び出す。走りながら取った構えは、レイファンの時と同じ。左手に鞘をもち、右手で柄を逆手に持つ。そして一瞬で黎の前に移動すると、左手を前に突きだし、右手を突き上げる!
「どけ!」
凛が叫び、反射的に前に飛び出す。しかし、間に合わない。
黎の目から、色が抜け落ちた。
「…遅い」
一言呟いた時には、もう勝負は付いていた。
ガタリ、と音を立てて刀の上半分が落ちる。一瞬、司乎には何があったか解らなかった。
凛には解った。
―黎は、抜刀された瞬間超高速で手を振った。
ただ、それだけ。
それだけで、刀を切断した。
「…やはり、ただの人間だ」
黎の姿がかき消える。一瞬後、司乎の首から鮮血が吹き出した。
やばい、と凛は解った。一度対戦していて解る。彼女のスピードは、人間にはついて行けない。
駆け寄ろうとした足下が、鉛弾に砕かれる。―レシカだ。
「手を出すな。彼は、殺されなければならない」
「レシカ」
「何度も言わせるな。手を、出すな」
「レシカ」
「聞こえてるでしょ、凛!」
ライフルの弾が尽きたらしい。レシカが舌打ちして、腰から抜いたリボルバーを構える。凛は歯ぎしりする思いでそれを見つめた。


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