作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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「チッ……、どこにそんな力があったんだ……」
女は苦々しい顔をしてニコルを見る。
「ふん……そんな小物を狙ってもしょうがないでしょ……かかってきなよ……」
ニコルは氷に突き刺さったまま手招きする。
「減らず口を……そんなに死に急ぎたいなら、すぐに息の根を止めてやる」
女はニコルに向き直ると止めを刺すべく歩き始める。
俺は恐ろしくてその場にへなへなとへたり込んだ。
「……おい、今のうちに……逃げろ……」
その時、今にも消え入りそうな声が聞こえた。メイスンだった。メイスンは岩に足を下敷きにされ身動きが取れない。
「ニコルはお前を逃がすために時間稼ぎをしているんだ……。お前だけでもここから逃げるんだ」
そう言うとメイスンは呪文の詠唱を始める。
「『恐れを知らぬ者』」
途端に俺の体が軽くなった。さっきまで恐怖で動かなかった俺の足が自由に動く。
「この呪文は恐怖心を一時的に取り除く呪文だ」
「な、なんで俺を……?」
「お前を巻き込んでしまったのは俺達だからな、あいつも少しは責任を感じたんじゃないのか?」
メイスンはフッと笑いながらニコルを見る。
「さぁ、早く行け……」
「す、すまん!俺はまだ死にたくねえ!」
俺は一目散にその場から駆け出し部屋の出口へと走り出した。
「逃がしはしないよ!アルガニスタンの奴らは皆殺しだ!」
後方から女の叫ぶ声が聞こえた。その声と同時に巨大な熱い何かが迫ってくるのが温度差で分かった。恐らく女が炎の呪文を俺に向かって放ったに違いない。俺は振り向きもせず全力で出口に向かって突っ走る。それはどんどん俺へと近づいてくる。間に合わない!
――ドドドドーン!!
俺に当たる瞬間、迫っていたソレは別の何かに当たった。俺は走りながらチラリと後ろを振り向いた。そこには仁王立ちで立ちふさがるゼルドの姿があった。ゼルドがそのまま崩れ落ちる。
「に、逃げろ……」
かすかにゼルドの声が聞こえた。
俺は部屋の外に飛び出した。そして、そのまま走り続けた。泣きながら走り続けた。何がなんだか分からなかった。なんであいつらが俺を守ってくれたのかも分からないまま走り続けた。
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