作品名:転生関ヶ原
作者:ゲン ヒデ
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 翌朝の十七日、留守居役の元忠らに見送られ、家康の軍勢は出立して、東海道を進すむ。夕刻に大津城に近付く頃、城主の京極高次たちが出迎え、城へ案内する。徒`歩で案内する高次たちに、馬上で恐縮した素振りの家康、遠くの夕暮れの琵琶湖を眺めていると、またも幻想がおこる。
 柱が連立した広間のような所で、老婆がしている髪型の美しい乙女(高松塚古墳の女人風)が泣き伏し、自分は、みずらの髪の幼児を抱いている。
「大王(おおきみ)、父の反乱、申し訳ありませぬ」女性は、目を腫らしていた。
「謝ることはない、十市。叔父上に人望がありすぎたのだ。私は若すぎた。……勝てればよいが……、もし負けたなら、葛野を連れて、叔父上を頼れ。葛野は叔父上の孫、無体な事はせぬだろう」幼児に頬を付けて、「葛野、葛野……」と自分が嗚咽している。

 正気に戻り、(はて?我が初陣の 寺部城攻めは、永禄元年、十六歳(数え)だったが、あの時とは、どうも感じが違う、乙女をトイチ?とか言ったが、……抱えた幼児は、信康とは違っていたし、あの乙女、わしを 大王 と呼んでいたが、大友皇子は即位できなかったはずだが、……、判らぬ……またも、転生話からの連想か)家康は自分自身に呆れた。

 横を歩く京極高次に声を掛ける、
「古(いにしえ)の大津の宮は、どの辺に在りましたかな」
「はあ……」判らぬ素振りの城主、の後に付いている老家臣が、
「はっきりとは判りませぬが、この場所から南に広がっていたかもしれませぬ。錦(にしき)という地名が、大津の宮を示しているのではないか、と思いますが」
「さようでござるか……錦か」家康が眺める湖面の前に、錦織りの輝きの都の幻が現れ、霞のように消えていった。


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