作品名:i n f u s e
作者:さくらみなこ
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翌朝ロイが訪れた時には
アルテの体調が優れず、ベッドから起き上がる事が
出来ずにいた。

「熱はあるのですか?」
「いや、昨日のショックが原因だと思うけど・・・
アルテは私が蓮池を探すのが嫌なんだ・・・」
背を向けているアルテは
拗ねているようにも見える。

心の病気さえ無ければ両性体は
命がある限り、全てに対する抗体を
持ち続ける事ができるのだが、感情が
折れ曲がってしまった場合、そのたびに
抗体が薄れていく。

その結果、病原菌を受けてしまったとして、
外には出さず自分だけで
処理してしまうため、どんどん
寿命が短くなっていくのだ。

だから自然が多く、人々は優しく、善意に
溢れている緑色地での両性体は
長寿で減ることが無い。

と、いうことは青色地とは
この島と同じような環境だったのだろうか?
とリオンの脳裏に疑問が過ぎった。
「ロイは青色地へ行ったことがある?」

「ずいぶん前になります」

「閉鎖する前?それともスパイとして?」

少しだけの笑みで遠くをみつめるロイ。
「閉鎖する前でした」

ベッド上で背を向けていたアルテの体が
ゴソゴソと動き出す。

「あの頃の青色地は・・・人々が
希望に胸をときめかせているようでした」

アルテが二人の話に耳を傾ける。

「青色の民たちは働けば働くほど
収入を得て、暮らしは合理化し、贅沢な生活が
できるようになり・・・でも・・・それと同時に
心をどこかに置いていっていっているような・・・」

「なぜ?」

「人はあたりまえのように欲しいものが
手に入ると傲慢になるのでしょうか・・・」

「おごりたかぶるってこと・・・?」

「今の生活が崩れるはずが無いと
錯覚をおこすのでしょうね」

「だから、緑色地に流れていく両性体も
いらないと考えた?」

また背を向け、シーツをかぶるアルテ。
それに気づくロイ。
「青色の両性体は自分たちからその地を捨てたのです」

「そうだったね・・・」
そう返答しながらアルテに近寄るリオン。

そして、そっと覆いかぶさり
両腕でアルテを抱きしめる。
「アルテ・・・」

返事が無い空気の中での気まずさが漂う。

「緑色地は両性体がいなければ
生きていけないと思うよ」
耳元にささやくリオンに、アルテは
かぶるシーツをわずかにどかす。
「リオンは?」

「私は緑色地とともにあるから」
「うん・・・」声にならない声。
そして一点をみつめるアルテ。

波の音が、遠い昔を思い起こさせるように、
ロイは呟きはじめた。

「地位や名誉、富を得た青色の民たちの行方は、
青色地の王の権力を奪い、王室の
権限を抹殺してしまいました。
国を統一する者がなくなると、生活に
格差が生まれ、貧困者の反発で争いが
絶えなくなったのです。
当時、王家の末裔と大きな力をつけた勢力が
対立するのを見かねて、
緑色に流れた両性体が、緑色の王に
泣きついてきました。
そして当時の王子、ルディア王は二つの
勢力の間にわって入り、なんとか戦争を食い止められる
絶好の機会を得られました。
たまたま両者の代表の妻に子がやどり、
政略結婚が出来る性別であればと、婚儀を
交わす約束ができたのです。
その頃です。
私が青色地に使いとして行ったのは・・・」

アルテに覆いかぶさっていたリオンが
振り向きざまに聞く。
「生まれた子供たちの性別は?」

「男と両性体でした。
最高の組み合わせに青色の民たちは
歓喜しました。
私が見たその子たちは同じベッドの上に
寝かされて、偶然なのでしょうけど
抱き合うように手を繋ぎ合わせて眠る。
それはとても暖かな光景でした。
まるで青色地に光を与えるために産まれてきた
かのように・・・
それを目の当たりにした私も幸せでした。
民たちは希望に満ち溢れているようで、
神が与えてくれた子達と
空を仰いで感謝していました。
今でもあの民たちの笑顔は忘れることができません」

アルテがゆっくり上半身を起こし、そして問う。
「結婚したの?」

「まだ産まれたばかりだったので
私が仲介し、青色の婚約儀式を行いました。
両者の耳端中央に蓮の花のタトゥーを記したのです」

「青色はタトゥーで、緑色はピアス。
二つの国のする事は、兄弟のように似ているんだ・・・」
一点をみつめて、
呟くように言うアルテに同調するロイが頷く。

「こんなに似ている地と地は何故
一つになれなかったのか・・・
緑色の現王の切なる願いでもあったのに・・・」

リオンが耳を傾ける。
「切なる願い?」

「緑色と青色が一つになれたらと
二人に期待していたのではないかと思います。
これからの未来を・・・青色の人々も、
そのときは誰もが安堵したのに・・・
その直後、青色地には
病原菌が蔓延するようになり、両性体が
大量に緑色に流れ出し、緑色の先代ウス王の権限で
鎖国が始まって・・・」

「二人の子供は・・・?」
アルテの冷ややかな顔が呟く。

「健康回復もままならない民たちの怒りが
頂点に達し、やり場の無い想いが
両者の代表たちに向けられ・・・代表者たちは
蓮の沼に身を投げて・・・
子供たちの行方もわかっておりません。
噂では蓮の沼に葬られたとも・・・
もう少し時間があれば・・・」

「残虐だ!」
唇を噛み締め吐き出すアルテの言葉に
リオンは驚く。

今までアルテの口からは、聞くことが無かった言葉と
険しい顔つきだったからだ。

この地にやってきて、性格や体調が
少しずつ変化するアルテに、
リオンは微かな不安を感じていた。

いつも側で人懐こい笑顔をみせていたアルテが
変貌していく。

それは気のせいであってほしいと願うリオン。

自分が蓮池を探すために、
アルテを変えてしまうことが罪のような気もする・・・

だけど青色地のような末路をたどらないためには、
自分が王の期待に応え、緑色を守らなければいけない。

そして、それには蓮池は絶対必要なもので、
自分にはやり遂げなければならない
使命とさえ感じる。

使命なんだ!

そう言って自分自身に言い聞かせると、
リオンはアルテの手をとった。
「行こう!」

「えっ?」

「一刻も早く蓮池を探そう!」

不安そうにリオンをみつめるアルテ。

ピーンと張り詰めた空間。

しばらくその空気が続くと思った瞬間、かん高い声が
外から波の音とともに聞こえてくる。

その声はだんだん大きくなり
「リオーン!」と叫んでいる。

聞きなれた美しい声・・・
そう・・・あれはメテルの声だ!

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