作品名:雪尋の短編小説
作者:雪尋
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「僕らの年代別美味いものランキング第一位」
部活の帰りに友人のキヨハルと飯を食うことにした。
「よっしゃ。じゃあ牛丼食いに行こうぜ」
「えー? 俺、ラーメンがいい。ネギトンコツ」
自転車をこぎながら『何を食うか』という議論を始めると、3秒で意見が分かれた。
なんとキヨハルのやつが豚骨ラーメンを食いたがったのだ。
博多っ子でもないくせに。
「おいおい。牛丼・特盛り・つゆだくが高校生の基本だろうが」
「バカだなー。ラーメンこそ究極にして至高の高校生フードだろうが」
意見は対立の構えを見せたが、野球部の帰りだった僕らはハラペコで、ぶっちゃけ胃袋としてはどちらでも構わない状況だった。しょうがないので間をとって、カレーを食うことにした。
五年後。
仕事の帰りに同僚のキヨハルと飯を食うことにした。
「何食うかなぁ……。よし、焼き肉食いに行こうぜ。食い放題の」
「えー? 俺、寿司がいい。ローリングしてるやつ」
会社を出る直前に『何を食うか』という討論を始めると、3分で意見が分かれた。
なんとキヨハルのやつが寿司を食いたいと言いだしたのだ。
贅沢者め。
意向は対立し、議論は加熱され激論に変わった。しかし僕らは喉がカラカラで、ぶっちゃけビールが飲めるならどこでも良かったのだ。しょうがないので居酒屋に行くことにした。
十年後。
仕事の帰りに親友のキヨハルと飯を食うことにした。
「よし、今夜は寿司でも食うか」
「えー。俺、もつ鍋がいい。味噌味の」
会社の昼休みに『何を食うか』という談論を行うと、15分で意見が分かれた。
なんとキヨハルのやつが寿司を食いたいと言いだしたのだ。
お前痛風じゃなかったっけ。
意志は対立し、論争は戦争に変わりそうだった。しかしキヨハルは痛風ではなかったので、僕は彼のアイディアに従うことにした。ぶっちゃけどこでも良かったのだ。
二十年後。
キヨハルを食事に誘った。
「…………なぁ、飯……食いに行こうぜ。ほら、三丁目のコンビニ。そろそろ時間だ」
我らの段ボールハウスにて『何を食うか』という検討を行うと、1秒で意見がまとまった。
僕が提案したのは、少し遠いけどまともな食材が多いコンビニ。
拾い食いは犯罪か?
最近は何を食っても胃がもたれる。コンビニの廃棄弁当ばかり食ってるせいだろう。しかし、生きるためには食わなければならない。ぶっちゃけ僕らは死ぬ寸前だった。
三十年後。
キヨハルと僕は並んで栄養を摂っていた。
点滴に味はない。でも僕らにとってこれは、立派な食事だった。
「今日は良い天気だなぁ」
外を見たそう呟く。
しかし、返事が無い。ふと気がつくとキヨハルは一足先に呼吸と心臓を止めていた。
…………点滴に味はない。だから僕にとってこれは、食事ではない。
―――――――――あばよキヨハル。お前と食う飯は、何でも美味かったぜ。
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