作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜最終版
作者:光夜
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 「ふむ、雑魚とはこれまた侵害だな。このような掃除役を引き受けたわけではないのだが、まあ致し方無いだろうな」
 孝太を完全に無視をし、黎に似た何かはブツブツと呟いて自分で納得をしていた。孝太は未だ理解できていない、相手が何か言っていることも気にならないし何よりも孝太は彼をまだ認識すらしていないのだから。まるで幻視のよう―――――――倒したはずの黎はちゃんとここに居て孝太のことを排除するなど言う物騒を口にしているのだから。
 「お前―――――――――――誰だ……………」
 自然と疑問を口にしていた。だが、ソレを口にしなければこれ以上話すことが出来そうに無い。口調こそ違うもの、目の前に居るのは間違いなく黎なのだ。だが、何かが違う。黎と絶対的に違う部分が在った。ソレは何なのだろうか―――――――
 「おやおや、これまた侵害。一度会っただろう俺の兄貴にさ、一応名前は言っておこう。我(オレ)の名は明(メイ)だ。まったく兄貴も物好きだよ、勝手に自分で自分の名前をつけてさ、そうなると俺だって名前を付けないと格好がつかないじゃないか」
 明と名乗ったソレは黎のことを兄と言った。兄弟、また有り得ない事が起こった。なぜに細胞分裂と同様のコアから意思疎通を持つ兄弟概念が生まれるのだろうか、孝太の思考は高速回転をし一気に解決をしようとするも、その理解力は乏しかった。わからない、ソレが答えだ。
 「しかし、傑作だよな。二人揃って黎明だぜ、何が夜明けだよ。兄貴もかなり平和主義者だったってわけだな、餓鬼」
 餓鬼、今度はそう言った。気にならないわけが無い、孝太は眉を吊り上げていった。
 「黙れ、ソレよりも聞きたい。お前は黎の弟なのか、だとしたら目上を冒涜するようなことは言うなよ、ソレが死者なら尚更だ」
 相手からは否応無しに死の臭いが届いてくる、そんな相手に罵声を吐くなど常人から見たら自殺行為に等しいだろう、それでも孝太には言わなければ腹の虫が納まらなかったようだ。敵で、戦闘でしか自分を維持できないような黎でも人間に近いものを孝太は感じていたのだ、そんな奴をましてや兄と言う者が皮肉など口にして良いはずがない。
 それなのに―――――――――――
 「は、―――――――は、あははははは。馬鹿じゃねえのお前?!自分で言ったことが理解できているのか?お前今我や兄貴のことを人間扱いしただろう、あー、なるほどイリスが遊びたくなる理由が判らないでもないな、うん」
 目を見開いて孝太を笑った。拳を握る、孝太は肉親の死を笑い飛ばせる異常者の脳がソレこそ理解できているのかどうか疑わしかった。
 「お前、自分が言っていることが解っているのか!兄貴だろうが、死んだんたぞ、何も思わないのかよっ………!」
 怒りに任せて怒鳴りつける、確かに相手は人を殺める事に何も感じない人外の者かもしれない、だからって仲間の死を笑って良いはずが無い、
 だと言うのに―――――――――
 「――――――――――――――お前、死ぬのか」
 一瞬にして背筋が凍りついた、先ほどまでの馬鹿笑いは何処へ行ったのか今目の前に居る明と言う怪物は孝太に怒りを感じている。
 「っ―――――――――」
 声が出ない、なぜか何も考えられない、少しでも動けば目の前の両刀で切り刻まれることは未来視が出来ない孝太でもそんなことは本能的に感じた。
 なのに、解ってしまった。彼からくる感じは黎とはまったくの反対なのだと、黎はどんなに戦いを好んでも人を馬鹿にすることは無かった、喋ってばかりの偽武士はそれでもフェアに戦う事を願っていた。
 だというのに、明からはそんなものは一切感じられない。まるで、暗い夜道にの翳りから顔を出した月の様。
 「死にたくは無いらしい。まあ、いい…………それ以上俺たちのことに口出しをすると間違って殺しちまうじゃないか。ソレにさ、餓鬼。兄貴に言っただろう、存在不適合者ってな。それで十分俺たちを人間扱いする資格を剥奪出来るんだよ、いいか、もう一度言おうか、これ以上何も言うなよ。ここでやることは一つだけだろう?」
 そう言って刃を見せた。生きるか死ぬか、ソレがこの場にある概念のみ。
 「それにさ、我も単に笑っているだけじゃあない。正直口喧嘩をする相手が居なくなって寂しいんだよ、だからさお前を殺せば気が晴れるかもしれないだろう!」
 言い様、真っ直ぐに腕を突き出して孝太の左眼球を狙う。
 「――――――――!」
 怒りに任せた突進は意外と早いのか、孝太は一瞬行動が遅れた、それでも顔をそむけるぐらいは出来た。
 ぶしゅ、避けきれず左頬が切れて血がでた。
 「避けた、か。中々どうして、いい動きだな餓鬼」
 流れる血をぬぐう時間はない。続けざま二撃目が襲ってくる。今度は遅れをとらない、だがそれでも服の端が切れた。黎のような大きな動きではないがソレが繊細さを強調し一つ一つの攻撃が一撃必殺にも見える。三撃目がくる前に孝太は地面すれすれに居る記月記を視界に捉える。このまま足場にいられたら戦闘の邪魔だ。
 「記月記、ちょっと退いてろ」
 「ん?ああ、そうだな。よいしょっと」
 立ち上がろうと腰を上げる、が腹部に何かが入り込んだ。孝太のつま先?
 「遅い、このまま飛んでけええええええええええ」
 思い切り空高く足を蹴り上げた。
 「お?――――――――NOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
 空の星になるとはこの事か?あっという間に記月記の姿は見えなくなった。
 「これで気兼ねなく戦えるぜ!さあ、掛かってきな!」
 そしてようやく孝太はもった斑匡を構えた。
 「そうだな、邪魔は居なくなった、どうせこの後誰も居ないんだから死んでも構わないだろう餓鬼」
 三撃目はやってこない、明が止まったからだ。孝太にとってのチャンス。だが、
 明はさらりと流すように言った、今の言葉は聞き捨てなら無い。彼はなんと言った、これ以上後は居ない。ならば孝太は九体のコアを倒したことになる。いや、そんなはずは無い、少なくとも今目の前に居る明を入れて残りは三体ぐらいのはずだ。ならばなぜそんなことを言うのだろう。だめだ、一度考えたら孝太止まらない。疑問は自然と口から出た。
 「後が居ないって、どういうことだよ。少なくとも俺は六体までしか数えていないがそれぐらい倒した記憶はある。だが九体も倒した記憶は無いぞ明。教えろ、後が無いってどうしてそうなる」
 切っ先を向けたまま孝太は睨むように訊いた。少しでも気を緩めれば話など無視して姪は攻撃を仕掛けてくる。それだけは駄目だ、疑問をそのままにしては先頭に支障が出る。ここで謎は終わらせて戦闘に全てを――――――――
 だが、そんな質問自体無駄だったか、明は一言。
 「考えれば良いだろう、こんな簡単なこと」
 それだけ言った。やはりと孝太は軽蔑の目を向ける。答えなど期待した自分が馬鹿だった。そんな事言われなくても孝太は予想ぐらい立てられる。これ以上先が無いと言うことは今目の前に居る明が十体目となるのだろう。ならば、残りの者は明が――――――――
 「ったく、我のヒントがないとそんなことすら解らぬか?そうだ、苛立っていたのでな残りを見つけて始末させてもらった。何、何のことは無いだろう。出来損ないを数匹殺したところでお前が楽になっただけだ。我も気分が収まって結構充実しているのだ」
 明は心底楽しそうに言った。済んだことを孝太は怒る必要は無い。明の口調は気に障るが面倒事が減って孝太自身助かったと思っている。だがまた疑問が出た。明はなぜ同胞を滅ぼしたのだろうか、苛立っていたというがそれは何故――――
 「兄弟、だからか」
 一つの確信を口にする。明は何も言わない。当たっているのだろうか、それとも的外れすぎて怒っているのだろうか。いずれにしても明の顔は無表情だ。答えを窺い知ることは不可能に思えた、だが。
 「そうだ、八つ当たりだ………」
 静かにそう言った。やはり兄弟だった。概念はどうあれ、身内と言う考えを持っていただけでも孝太には十分な収穫だった。ローゼンのように科学的に調べるような考えは孝太には無い。だがそれでも彼らの考えぐらいは理解したいと思っているのも孝太が持つ探求の一つだ。その一つが解明された気がした。ならばもう喋るのは止めよう。今は生きるか死ぬかの瀬戸際に身を置いているのだから。
 「はは、何だよお前らやっぱり………」
 人だ。
 「だったら………だったらもっと、生きることを考えろよな!」
 人の思考があることは解った、解った孝太はそれがどうしたとばかりに明に斬りかかった。その行動、見抜かれていたか明はさらりとかわし前へ出た孝太へカウンターの一突きを浴びせる。
 ビュッ、今度は反対の頬が切れた。二度の紙一重での避けは明との距離を大幅にしないためだ。孝太は接近戦が要の剣士だ、明に距離を取られてはあのすばやい足で孝太の懐へ潜り込まれてしまう。そうなれば敗退するしかなくなる、こちらは片腕、あちらは両手とも刃物。手が刃物なのだ、自分の身体に馴染んでいるのだから二刀流の剣士よりも明は剣筋が立つに違いない。
 (そんなミス、死んでもやらねえぞっ―――――――絶対に)
 勝つ、孝太の集中力が一瞬明を凌駕する。左頬をかすった刃に孝太は視線を奪われている。目視で無ければ避けられず次の行動も読めない。それが仇となったか、左の刃に目を奪われていた孝太に隙を見たか明が右で孝太の心臓目掛けて腕を突き出す。それが最初だ。孝太は右手が動くと悟った瞬間視線を右手へ移し目視する。心臓への一突きが成功するかと言う瀬戸際で左腕を上へあげた。
 がん、と黎の時と同様にギプスが刃にあたり軌道がずれた。唯一黎との違いはそれだった、右手に刃は孝太の肩をかすめ三箇所目の切り傷を負わせる。けして浅くは無いその傷から血が絶え間なく流れ出る。
 その瞬間が孝太の狙いだ、両方の腕は突き出されている。戻しを行わず孝太がわざと作った隙に頼り浅はかな攻撃をした結果。孝太は明の懐に、居た――――
 「裏―――――」
 逆手に持った斑匡に力を込める、刃が微かに緑を帯びる。明は避けられない、微かな機転に賭けても直撃は免れないだろう。
 (やばっ―――――――)
 何を思ってももう遅い。この間一秒も無いやり取りだ、が―――――
 そのコンマに満たない中でク、と明は笑いで余裕を見せる。
 「刃迅!―――――――――――」
 渾身の力を用いて孝太は右手を前方へ振りぬいた、テニスのカウンターのような格好はたとえ後ろへ逃げようとも踏み出した一歩がその距離を零へと戻す。
 だと言うのに―――――――――――
 緑の輝きを放つ絶対貫通のその技は明の身体を一刀両断することを目的としその身体(明)へと吸い込まれていった。
 バシュンっ―――――――――――――確実に、何かに当たりそして貫通した。その音はバスのガス抜きじみていた。
 孝太は被害が出ないために刃迅を空高く舞い上げた。いずれ、その攻撃性の高い刃は消えて無くなるだろう。
 そう、確実に孝太は明の身体を貫通させた、目視で見ても身体に刃が吸い込むところを見ていたのだから。
 「…………………ク」
 だと言うのに―――――――――――――――
 「――――――――」
 孝太は目を見開いた。何故、どうしてだ、アレは確実に身体を一刀両断したのに、何故目の前には不吉な影がまだ残っているのだ。
 「クククク………………ヤーーーーーーーーハハハハハハハ!!!!」
 目の前には取り除くはずだった明が片腕を無くした状態で笑っていた。
 「ハハハハハハ、なかなか上出来だったぜ餓鬼、もう少し判断が遅れれば俺の身体は地面で二つになっていただろうなあ」
 ククク、と喉の奥で笑う声が聞こえる。信じられない、明は孝太の零距離に匹敵する一歩の間合いを持ってでも片腕を代償に避けれたと言うのか。
 「へ、心底信じられない様子だな、簡単だよ我が早かっただけだ。お前の技は弱くないし十分俺の戦力を殺ぐ事が出来ただろ。でもなそれだけだ」
 明は片腕を失ってもそれほどの余裕を持っているのは孝太の技を見切ったからだ。孝太自身それは解っていた。黎の時にも感じていた、彼らに同じ技は通じない。それ故の必殺であり、それ故の切り札だった。だがそれも失われ孝太は言葉が出なかった。

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