作品名:Who is she
作者:InVillage
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15分くらい歩いただろうか。僕がまだかなと感じた頃に、彼女が「着きましたよ」と言った。
「私、このアパートで一人暮らししてるんです」
彼女が部屋のドアを開け、僕もついていく。
「部屋は綺麗にしてるんですよ」
「サヤカさん綺麗好きそうな感じしますからね」
「本当ですか?私、そんな事言われた事ないですよ?」
「少なくとも僕にはそう見えますよ」
「ここに座って下さい」
僕の誉め言葉は流して、彼女はそう言って、僕は座布団の上に座らされた。
「サヤカさん料理出来るんですか?」
「できますよー。楽しみにしてて下さい」
「冷凍食品ですか?」
「もう!ひどい!信じられない!」
さすがにこれはマズかったか。
「ごめんなさい…冗談です…何つくるんですか?」
「肉じゃがです」
「ベタですね」
前に彼女が言っていた言葉を思い出した。“お見合い”みたいだ。
「ベタでいいでしょ?」
「いいですね。僕好きですよ」
彼女が包丁でトントンと何かを切り始めた。
「指切っちゃったーなんてベタな事しないでくださいよ」
「いつから私はベタな女になったんですか?」
「ははは。料理楽しみにしてますよ」
「任せてください」
どのくらい待っただろうか。彼女が料理してる間、僕はずっと彼女のついた嘘の事を考えていた。
「出来ましたよ」
彼女が久しぶりに口を聞いたので僕はハッと驚いた。
「おっ!待ちましたよ」
彼女が皿を机に置くと「カタ」と音を立てて、いい匂いがしてきた。
「いただきます」
「どうぞ」
口の中でよく噛む。
「うん。うまい」
お世辞じゃなく僕は本当のことを言った。
「本当ですか?」
「本当ですよ。いいお嫁さんになりますよ」
「よかったー。安心しました」
「また食べに来ますよ」
そう言った僕だが心のどこかにモヤモヤした霧がかかってるような感じがした。
「どうぞ来てください」
だから、彼女にそう言われた時は胸が締め付けられるように痛かった。
―――昨日と同じ。僕の部屋、僕のベッドの上
今日は決めていた通りいつものように振舞った。
しかし、そこにはいつもの様にウキウキした気分はほとんど無かった。
このままずっと誤魔化していてはいけない。
僕はそう思った。
彼女が誰にも気付かれずに玄関から部屋に入ってくるのはほとんど無理だ。おかしい。
それに、やっぱり1番わからないのは2日目の朝、大竹のオバサンが突然部屋に入って来た時に彼女が消えた事だ。
彼女はいた筈だ…
いや…
彼女はいなかった?
彼女は…いない?
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