作品名:転生関ヶ原
作者:ゲン ヒデ
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 その日の夕刻、寝所に来た元忠は、家康に、
「殿、この城の留守居役を引き受けるからには、この元忠、懸命に務め、西国の反乱軍を一日でも長く引き留めまする」
「うん……」以心伝心の老臣の言葉に、家康は涙ぐんだ。
「思えば、今川の人質暮らしから、ご苦労を重ねた殿が、やっと晴れて、天下人になるかどうかの瀬戸際、多くの兵は、遠慮無く、引き連れなさいまし。この伏見城には少数でよろしうござる」
「元忠、済まぬ」家康は項垂れた。

 城を守る策を話し終えると、二人は昔話を始めた。
 その終わりに、元忠、
「思えば、今川の人質暮らしの頃、川原で子供の石投げ合戦を見られた殿が、『少数側が勝つ』と仰り、その通りになりましたなあ。将来、頼もしい武将になられると、拙者らは思いましたものです」
「そんなこともあったのう」

「そういえば……、あの河原で、我らを見つめている雲水に気づき、今川家の目付かと思い、近づき話しかけましたが、拙者を見て、『はて、満足な前世を送った御仁が、当世に生まれ変わるとは、はて?、……アア、前世、主君に忠誠を果たせなかったからか。あの子供が前世の主君、……いや、まさか!』と言って殿を、食い入るように見ていましたなあ。ははは、奇妙な 思い出ですなあ」
「ほう、で、その坊主はどのような男だった」
「若い男で、我が国の者でないような、異形な顔、まるで蝦蟇蛙でしたが」
「蝦蟇蛙!」家康は、果心居士を思った。

「殿、明日のご出立もありますので、もうお休みください。では」
 歩くたび、合戦で負傷した片足の床音をたてて去る元忠を、家康は、涙を流して見送る。


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