作品名:此処に兆一・運動章
作者:七木ゆづる千鉄
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茂野河・丸打駅から地球を巡る旅に出た応援団一同。これからどういう地球に出逢うのか?天河は、それは億次郎が知っているという。億次郎の五人の娘、それが今度の旅の中核を成しているというのだ。そしてその五つの地球は、五行即ち木・火・土・金・水に関わっていると、これは兆一の言葉。電車からの車窓はまさしく銀河鉄道、目の前に次から次に星々が飛び交っている。そんな中、電車の車内アナウンスが聞こえてきた。
「間もなく、木野河に到着します。降りる際には遠くに飛ばされないよう、十分にお気を付け下さい」一体何に注意するのか、それは一同が駅のホームに降り立った際に解った。突然紫色の猛烈な風が起こり、孝太朗・億次郎・善三郎の三人が、あっという間に彼方へと飛ばされたのである。一体誰の仕業なんだと思った応援団、残り十人の目の前に紫色の光に包まれた男が現れ、
「ようこそ茂野河応援団の諸君。私は無量紫光団の団長だ。これからは私達が君達の相手だ。挨拶代わりに太郎・次郎・三郎トリオは私達の手であるところに移させて貰った。君達が捜し当てられるかどうか、楽しみにしているよ」と言ってその場から消えた。
「何だ?無量紫光団ってのは」最初に口を開いたのは中だった。後は団員同士のガンダ石による心の会話。
無量紫光団。名前の付く数では最も大きいもの、無量。その無量が紫の光を纏い様々な地球に降り立ち、様々な生物の繁殖を目的として活動している。そこに来た茂野河応援団は、奴等にとって一つの駒に過ぎないが、その駒を使って自分達の仕事を手伝って貰おうと考えている。だから応援団の何かしらをいつでもいじるのだ。だからこちらも奴等をいじって、今回の旅の目的・億次郎の娘を見つけていこうじゃないか!ということで、十人は駅から出て何か船、茂野河号のようなものを作ろうとして外へ出た。そこのあったもの、それは全く先の見えないジャングルだった。しかも生えている木は全て七木である。
「よし、この際だから此処で小船を十三個作ろうか。しまう場所は自分のガンダ石にすればいい訳だし」この明の提案により、十三個のミニ茂野河号が造られた。不思議なことに、出来たと同時に三個の船が彼方へと飛んで行った。だが誰も信じて疑わなかった、それが孝太朗・億次郎・善三郎の三人に届くだろう事を。それにしても、この地球は地面全てがこんなジャングルばかりなのだろうか?寛が分身ガンダで見たところ、南極北極以外は全てそうだという。七木の生命力、恐るべしである。三人の気配がガンダ石を通しても解らないのも、その所為かもしれない。
駅で飛ばされた、孝太朗・億次郎・善三郎の太郎次郎三郎トリオ、全員気を失っている時にミニ茂野河号がそれぞれの頭に激突した。
「あ痛っ!何でこんなものがぶつかってきたんだ?・・・頭来た!こんなもんは遠くへ投げ飛ばしてやる」と船を投げ飛ばそうとした孝太朗を億次郎が止めた。
「それ、ミニ茂野河号だぞ。おそらくみんなが俺達の為に作ってくれたんだ」
「よし、じゃあ、行くぞう!」と飛び出した善三郎を止めた億次郎、目で「何処へ行くか解ってるのか?」と言っている。
「い、いや・・・それは」答えに窮する善三郎。答えは孝太朗が出した。
「億次郎の娘の所だ!」と。億次郎もそれに頷き、太郎・次郎・三郎トリオの、それぞれのガンダ石を手係りとして、次郎の娘を捜す旅が始まった。傍らでそれを偵察している無量紫光団もいる中で。(どうやら奴等はこの場所でも仲間同士の連絡が取れているようだ)
応援団十人は、一体何処をどう行けばいいのか解らずにいた。そこで始まったミーティング。司会をするのは春男、先ずしゃべり出したのが中だった。
「取り敢えず行けるところへ行けば良いんじゃないか?♪下手な鉄砲も数打ちゃ当たる〜」
「こら、中!いくら何でもそれは成り行き任せすぎだ。これからミニ茂野河号を何百個も造って、それを動かしながら此処で様子を見た方が良いんじゃないか?」これは卓の意見である。それに対して明がこう返した。
「卓、それは少し強引すぎる。その何百個のミニ茂野河号、誰が見るんだ?今此処にいる俺達だけじゃあ、それは無理だ」この言葉に、
「じゃあ、ヨロズに手伝って貰うのはどうかなあ」と答えたのは寛。そうだ、忘れていた。自分達にはヨロズがいたじゃないか。いつもの通り、答えは教えなくても、ヒントはくれるだろう、そう願って全員で天通拍手をした。そして出てきたヨロズが語り始めた。
「この木野河の今お前達がいるところは、茂野河で言えばちょうど茂野河港にあたる。三人が向かおうとしているその場所は、茂野河での丸打にあたる所だ。みんなのガンダ石に地図を刻むから、それに従ってくれ。それから・・・」
「ちょっと待った」ヨロズの話を止めたのは、・・・黒い色の・・・これは億太郎だ!茂野河応援団には、更に強い味方がいたのだ。
億太郎の突然の言葉に驚いたのは他ならぬヨロズだった。
「億太郎、ちょっと待ったとは一体どういう意味なんだ?俺がみんなに知恵を授けるのには何も問題はあるまいに」
「確かにそうだが、億次郎の娘探しの他にもやらなければならない事があるはずだぞ」
「・・・そうか!なら娘探しは三人に任せて、みんなはこの木野河地球の問題解決をやってくれ」
その「問題」とは何か、それは鬱蒼と茂ったこの七木の木である。こんなに茂り過ぎると、いくら七木でも腐って息絶えてしまう。誰か人はいないのか?応援団十人はそれぞれミニ茂野河号に乗って人里を探す事にした。そして見つけた小さな集落、その家々の建材は七木ではない。ジャングルに生えている雑草を干して固めたもののようだ。何故あんなに便利な七木を使わないのか、天河が住人に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「七木を使うなんて・・・そんな事をすればガンダの祟りがやって来ますよ」どうやら、まだ目覚めていない億次郎の娘が七木の木の中に入っていて、木を切ろうとする時に「切るな!」と言って今まで木が使われる事がなかったようだ。そこで応援団の十人は、七木を切って集落の人々の道具を作る事にした。住人は「大丈夫なんですか」と聞いてきたが、これには明がこうきっぱりと言った。
「僕らが乗って来たこの小さい船は、此処の七木の木で造ったんです。ガンダの祟りなんて問題ありません。何しろ僕らもガンダ使いですから」そして全員が分身ガンダを見せると住人は驚愕の声をあげ、
「あなた達は私達の救世主です」
と感激の涙を流した。そしてこの「七木伐採」が眠っている億次郎の娘に大きな影響を与える事になるのである。
それは、太郎・次郎・三郎トリオが何か得体の知れない感覚に襲われた事から始まった。
「何故、木を切るの?」この声は億次郎に強く、他の二人に弱く聞こえてきた。更に、
「木はとても神聖なものよ。それを切るなんて、木の為にならないじゃない」と続いた。
此処で答えに窮した三人だったが、無量紫光団の一団員と、黒い意志を持った砂、即ち億太郎がこう答えた。
「神聖なものだからと言って、何も手を加えないとそれが崩れる事もある。さあ、木から出て外の世界を見てみなさい。ガンダの娘よ」
この時、木野河地球の一点が紫色に輝き始めた。そして途切れていた三人と十人の意志の疎通が復活した。茂野河応援団十三人は、その一点に直ちに向かった。そこには億次郎の娘が待っている、億次郎はその時どんな表情をすればいいのか、少し戸惑っているようだ。
そして辿り着いた木野河の丸打、行ってみるとその周りには木が無く中央に大きな七木の大木が立っている。億次郎はその木の根本に自分のガンダ石をかざした。すると紫の輝きは更に強くなり、そこに紫のガンダ石を持った少女が現れた。これが億次郎の娘!
「ああ、こんなに木が増え過ぎてたなんて・・・本当に、外に出ないと解らないものなのね」その言葉からは、大木のような強さと柔らかさが満ちあふれている。そして億次郎を見て、
「お、お父さん!会いたかったぁ」と抱きついて話そうとしない。相当木の中で孤独だったのだろう。そしてこの子の名前を何にするかで応援団十三人が話し合った結果、名前は「樹(いつき)」と決まった。
そしてどうしたのだろう、名前が決まった途端に樹は億次郎を抱くのを止めた。そして零子の赤いガンダ石に触れてこう行った。
「お母さん、此処からずっと遠い所にいるんだね。でも私にも見える。戊野河かぁ・・・一緒にいる子はお父さんの子供じゃないんだよね」
「そうなんだよ樹ちゃん。」答えたのは兆一、
「その子は俺の妹、名は笙子。訳有ってまだ一緒にいられないんだけど、時が来たら茂野河へ連れて行くつもり」と自分の有りの侭の気持ちを樹だけでなく、他の十二人にも改めて伝えた。
「さあ、お喋りはそこまで」
みんなの会話を途切れさせたのは無量紫光団団長だった。
「列車が出発しますよ。次の行き先は火野河どんな所かは読んで字の如しということで。それじゃ皆さん忘れ物はないですか?ガンダ石の中にミニ茂野河号が入ってない人がいるようですけど」
「俺かな?」直ぐ答えたのは兆一。
「何だよ、お前も相当おっちょこちょいだなあ」と行った善三郎・中だったが、その後硬直、忘れていたのはこの二人だったのだ。
元山電鉄七地球環状線・木野河駅には樹を始め大勢の人々が茂野河応援団を見送りに来ていた。やがて電車は出発。木野河地球はあっという間に小さくなっていった。次の火野河地球がどんな所か、まだ全く解らないが、一同は兆一のこの一言で和んだ。
「先がどうなるか、それは運次第。俺達は運動してるんだ!」
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