作品名:ついてない私:番外編 ついてる俺
作者:もはもは
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俺の名は安藤亮二。
都内の広告代理店に勤める29歳だ。
最近、この俺に不快極まりない事件が起きた。
そう、あれは2月20日の出来事だ。俺はいつもと同じように8時ちょうどに母親に起こされて、電車に乗って会社へ向かったんだ。
電車の中は、これまたいつもと同じなのだが乗車率120%を軽く超える満員ぶりだった。外を見ながら、蒸し風呂状態のこの電車が俺を残して吹っ飛んでしまえばいいのにと思っていたところだった。乗ってから2つ目の駅を停車したときに女が乗ってきたんだ。ただでさえ満員なのに無理やり、その女は乗ってきやがった。俺の前に立つと香水の匂いがしたんだ。こんなギュウギュウ詰めの電車の中でその匂いは俺の鼻を刺激した。
今考えると、俺は『匂いフェチ』だったからかもしれない。靴下の臭いがクサイと分かっていても、ついつい嗅いじゃうもんな。だから俺はその女の匂いをもっと嗅ぎたくて、顔を近づけたんだ。そうすると俺の息子はちょっと反応したさ。俺も案外若いんだなと思ったよ。そうして3つ目の停車駅を越えたあたりで、息子はもっと刺激を要求し始めたんだ。
だから俺は・・・いや、いつもしてる訳じゃないんだよ。そこは信じて欲しい。
まぁ、魔が刺したっていうのかな。俺はついつい女の尻を触っちまったんだ。ほんと軽くな。最初は触ってすぐ手を引っ込めたんだけど、女は全然反応しやがらねえ。だから、あれっ?って思った。こいつ気づいてないんじゃないのかって。だから、やばいと思いつつも、もう一回触ったんだ。今度はちょっと長くな。長く触ると発見したことがあった。女の尻って柔らかくて気持ちいいんだな。俺、知らなかったよ。長いっていっても時間でいうと10秒ぐらいかなあ。
けど、あれがいけなかった。きっと女にとって長かったんだ。4つ目の停車駅で女が降りるときにクルッと振り返って言ったんだ。あの女、なんて言ったと思う?
「女だと思って、調子に乗んなよ!デブ!」って言ったんだぜ!?
この瞬間、汗が噴出したね。馬鹿かお前って。俺はデブじゃないし。ちょっと腹に贅肉がついてるだけだから。
しかも公衆の面前で言うか、フツー?お前は降りるからいいかもしれないけど、俺はあと1駅乗るんだぜ!?
そのあとは他の客に白い目で見られまくったよ。マジで最悪だった。お前みたいな女は適当に男に遊ばれてポイッだろ!?中学から受験して都内の有名進学校に入って、大学も超一流の私立に入った俺とはランクが違うんだ。なのに、そんな俺に向かってデブだと!?時代が時代だったら斬り捨ててるとこだよ。
そのあとの仕事も最悪だった。誰か俺の近くに乗車してたらしくてヒソヒソ女どもが言ってるんだ。「あのデブ痴漢してたって。」みたいなことを言ってた気がする。マジで俺を馬鹿にしやがって。あと俺はデブじゃない。そのあとは怒りに任せて仕事を終わらせたよ。帰りの電車の中であの女に会ってたら首を絞めてたろうな。
そんなとき、帰り道でじじいに話しかけられたんだ。「ちょっとお前さん、そんなに恐い顔してどこへ行くんじゃね?」ってよ。
俺は無視して行こうと思ったんだが、そのじじいが変なことを言ったんだ。「さてはお前さん、痴漢をして女に強く言われたんだね?」って。
痴漢をしたとは思ってないが、何でこのじじい知ってるんだ?さては朝見てたんじゃないのか?って思った。俺は「なんだよじじい。文句あんのか?」って言ってやった。このときの俺は勇ましくてかっこよかったよ。そしたらじじいは言ったんだ。
「ほほほ。別に文句はありゃせんよ。じゃが、お前さんの今月の運勢にはちょっと言いたいことがあるのう。」ってな。
ここで頭の回転が早い俺は分かったんだ。さてはこいつ、運勢を見てやると言って俺に多額の金を騙し取ろうとしてるんじゃないかってね。
けど「なにも鑑定料なんて取ろうと思っとらんよ。お前さんの今月の運勢は月が進めば進むほど良くなってくるんじゃ。きっと何をやっても上手くいくじゃろう。」とじじいは言った。
そんなこと言われて気分が良くなる下品な俺じゃないが、少し気分は紛れたんだ。じじいはその幸運を悪いことに使うなよ、みたいな説教をたれそうになったから俺はそこを去ったんだ。
今月幸運だって?ふざけるなよ。じゃあ朝の出来事はついてたってことか?なんだそれ。占いなんてマジであてにならないよ。そう思いながら家に着くと俺宛に郵便物が届いてたんだ。大きさは小雑誌くらいかな。俺宛になんて珍しいなと思って袋を開けてみると、中身は俺が超欲しかったゲームソフトと一枚の紙が入ってたんだ。
一気に興奮状態となった俺は紙を読んでみた。そこには「おめでとうございます。あなたは当雑誌に応募され、みごと当選されました・・・」って書いてあった。
そのとき俺は思い出した。毎週かかさず買ってる週刊誌の懸賞のことを。俺はその場でガッツポーズをした。俺ってすごい!なんてすごいんだろうって思った。
やっぱり、あのじじいが言ってたことは本当なのかなと少し思った。
俺はその夜、愛用の抱き枕を抱えながら遅くまでゲームを楽しんだんだ。
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