作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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少年の放った閃光は大理石の床を駆け抜けると、奴の股間から頭部までを一気に貫いた。内臓をぶちまけ血を左右に噴出しながら、そいつは絶命した。
「キミ達の相手はこのボクだよ」
灰色の髪、灰色の瞳、灰色のローブ、灰色の靴、全身を灰色に染めたその少年の名は、ニコルと言う。
その場の全員がニコルに振り返った。そいつらはギリギリと仲間をやられた怒りの歯軋りをさせながら、一斉に襲い掛かってきた。全身の毛を逆立たせ獰猛な牙をむく魔性の犬『ヘルハウンド』は魔物の中でも中堅クラスの手強い奴らだ。だがニコルは動じもせず、不適な笑みを浮かべながら淡々と呪文の詠唱を始めた。
ヘルハウンドの一匹がニコルに飛び掛った、が、その攻撃は届かずニコルの目の前で口をガチガチと噛み鳴らし空中で止まる。奴の体は床から伸びた巨大なツララによって胴を貫かれていた。他のヘルハウンド達も、まるでモズのはやにえのように次々と貫かれていく。
形勢悪しと見た残りのヘルハウンド達はニコルに背を向け部屋から逃げようと扉に向かって駆けていく。だが行きも地獄なら帰りも地獄。彼らを待っていたのは地獄の鬼が持つ巨大な斧だった。まるで魚の開きのようにヘルハウンド達はその男の一振りで真っ二つにされた。
男が返り血のついた斧を一振りすると、その血はまるで通り雨のようにビチャビチャと壁に叩きつけられた。真っ黒な鎧と兜で身を包んだ暗黒騎士ゼルドは無言で斧を背負った。
「あれ、こいつまだ生きているよ、しぶといなあ」
息も絶え絶えに横たわるヘルハウンドを蹴り飛ばすニコル。
悲痛の叫びをあげながら足元に転がってきたヘルハウンドの頭を黒き牧師メイスンが踏み砕いた。
「アーメン」
部屋に静寂が戻る。十匹以上いたヘルハウンドの群れをわずか三分足らずで全滅させたこいつらは、化け物以上の化け物だ。
そして、そんな恐ろしい奴らと一緒に行動するハメになった俺様は世界一不幸な人間だろう。
「パンタロン、この宝箱の解除お願いね」
「は、はい!ただいま!」
部屋の中央に出現した宝箱の解除をニコルが頼んできた。隅で隠れていた俺はダッシュで宝箱に駆け寄る。
「トレジャーハンターのパンタロンなら、こんな宝箱の解除なんて簡単だよね」
天使のような笑顔を見せながらニコルは無邪気にはしゃぐ。だがその目は笑っていなかった。俺は生きた心地がしなかった。もし宝箱のトラップにひっかかったりしたら……。
額に汗が滲み頬を伝う。そんな俺を楽しそうにニコルが見ていた。
――カチャリ。
宝箱の鍵が開いた音がした。なんとか解除に成功したようだ。俺は安堵のため息をついた。その時だった。
――ピーピーピー。
解除に成功したハズの宝箱から不吉な音が鳴り始めた。ど、どう言うことだ?!
「この音は何?パンタロン?」
「さ、さぁ?抽選にでも当たったんじゃないか?きっと凄い宝が中に入っているんだよ!」
「ふーん」
ニコルが微笑みながら俺をジッと見つめる。
「僕ね、役に立たない物って嫌いなんだよね。オモチャとかさ、壊れたら粉々にしたくなるんだよ……」
バチバチとニコルの手から稲妻がほとばしる。
ああ……俺、死んだな。思えば短い人生だったなぁ……。
俺はあきらめて目を閉じた。今までのことが走馬灯のように思い出される。
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