作品名:算盤小次郎の恋
作者:ゲン ヒデ
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 城北の武家屋敷・内町(うちまち)の背後の土塁の向こうは、水を湛えた中濠である。取り囲む中濠により、内町は、外部から閉ざされた感がある。で、にぎやかな町家に近い城の南などの他の武家屋敷に比べて、生活の不便さで嫌われ、江戸時代の中期から屋敷の半数は空き地になっていた。が、美観のため、道に面する塀と門は、維持しなければならない。
 
 早春のある日、非番の中年の藩士二人が一緒に、自分たちの前の空き地の塀に白漆喰を塗っている。その作業は、年期の入った本職の左官屋にも負けない腕をしていた。

 当時、白亜の城の周囲は、石垣、土塁、濠などが、内、中、外と広大に取り巻き、その上に櫓門や、それを結ぶ塀やら、白漆喰で塗り込んだ白亜づくしの建造群が、至る所に延々と続いていた。
毎年、あちこち補修をする箇所ができるのだが、多くの家来が、左官屋代わりに働かされた。専門的な大工を使う必要がないかぎり、諸費節約のため下級藩士や中間、足軽たちが、修理に従事させられていたのである。 

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