作品名:登。名画奪還
作者:星君
■ 目次
登はドンドン走り続けた。
すると、ちょっとした広場に出た。
中央にガーゴイルの石像があり、道はそこから三方向に分かれている。登は南の道を選んだ。
その先は、梅の木が立ち並ぶ、小さな林道になっていた。登は風景を楽しみながら歩き続け、林を抜けた。
しばらく行くと、「イーヤッホーイィィィ!」という叫び声が聞こえて、登は足を止めた。
三輪車に乗ったせむし男が猛然と走ってくる。
せむし男は登を見ると、「久しぶりの獲物だぜェェェ!」一段と速度を上げて向かってきた。
戦いは避けようがないようだ。
登は走ってきたせむし男に、目つぶしを喰らわせた。
目つぶしは見事にクリーンヒットした。
せむし男は「アウチ!」と叫び、豪快に転倒した。
「く…」せむし男は起きあがろうとしたが、もはやその力は残っていない。
せむし男の身体はみるみるうちに縮んで、消えてしまった。登は先を急いだ。
登はドンドン歩いていった。
すると、轟々と音を立てて流れる川にぶつかった。
道がここで途切れている以上、なんとかしてこの川を渡るしかない。
あたりを見回すと、はしけにゴムボートが繋いであった。
「登ゴムボート号、出航!」そんなことを言いながら、登はゴムボートに乗りこんで川に出た。たちまち急流に流され、クルクルと翻弄される。
しかし登はひたすら神に祈り続け、何とか向こう岸にたどり着くことができた。
しばらく進んだところで、妙な気配を感じて、登はふと天を仰いだ。
空に、小鳥の大群が集まっていた。
登が見ると、小鳥たちはピーチク鳴きながら飛び回って、文字を作り出した。
「なになに…『名画お、あきらぬろ。そうしたら、かわりに、いいものおやる。しめじ大帝』…」
「そんな手に乗るわけ、ないだろ!」
登は足下に落ちていた石をさっと拾って、小鳥たちに向かって投げた。
小鳥たちはちりぢりになってよけて、再び集まってメッセージを作った。
『はずね』
「それを言うなら『はずれ』だろ!」
そんな大人げないことをわめきながら、登は進んでいった。
登はドンドンと走り続けた。
やがて、十字路にさしかかった。                                                       登はそのまま直進を続けた。
それから、1時間も歩いただろうか。
登は鬱蒼とした森に差しかかった。
森はかなり深いらしく、道もほとんどない。
登は生い茂る草をかき分けて進んだ。
だがいくら歩いても、森から出られない。
登が途方にくれていると、向こうから虎と狼と熊がやってきた。
「おー!これはこれは…まだほんの小さい時、あなたに助けてもらった、あの時の熊です!どうやら道にお迷いのご様子…ここは俺が出口まで案内しやしょう」熊が舌なめずりしながら言った。
「何をおっしゃるやい。この人は俺がまだほんの子猫くらいの時に、俺を助けてくれたあの人さ!案内は俺にまかせてください」虎が牙をやけに光らせながら言った。
「ノンノンノン!この人は俺が可愛い子犬くらいの時に、俺を助けてくれた命の恩人。案内は俺にまかせるに限ります」狼がよだれを垂らしながら言った。
登は誰に案内を頼むか迷った。
登が熊を選ぶと、虎と狼は地団駄を踏んで悔しがった。
「おー、まかせて下さい」
熊は背中に登をのせて、森の中をのしのしと進んでいった。
正直、登は熊を助けた記憶はなかったのだが、熊の思い出話を聞いているうちに、うっすらと思い出してきた。
「ほら、付きました。道中お気を付けて」
熊はおみやげに木彫りの熊まで持たせてくれた。
登は前傾姿勢で歩き続けた。
やがて、滝に出た。
高い崖の上から落ちてきた瀑流が、水しぶきをあげて滝壺に飲み込まれていく。
登がその様子にみとれていると、近くの葉にとまったこがね虫の親子が会話するのが聞こえてきた。
「坊や。あの滝の奥にはね、本当は道が続いているんだよ」
「へー。ちゅごいね、お母ちゃん」
登はざばざばと滝に入り、落ちてくる水流をくぐった。はたして、道は本当に続いていた。
登は神秘的な穴の中を半時間ほど歩き続け、山肌の洞穴から外に出た。
登が前進を続けていると、道端の岩陰からいかれシンガーが飛び出してきた。
驚くべきことに、いかれシンガーは登の秘密を知っているのだと言う。秘密をバラされたくなければ、しめじ大帝に降伏しろと言うのだ。
「僕の秘密って…もしかしてあれ?それとも…あっちの方?」
「両方だ」
「ふーん…そっか…でも別にいいよ!」
羞恥心のない登に、そんな脅迫は何の効果もなかった。
登はノリノリで歩いていった。
やがて、道が二手に分かれる場所に出た。
右の道はカーブしながら続くなだらかな上り坂だ。
左は上り勾配の道がまっすぐ続いている。
登は右の道を選んだ。
しばらく進むと、風がかなり吹いてきた。
最初はそよ風だったのだが、次第にかなりの勢いになってくる。
そのとき、ハイネスキーがやってきた。
「この近くを、竜巻が通過するかもしれないんだって。風が止むまで、我が家に避難しなよ」
避難をする時間も惜しいのだが、風はだんだん強くなってくる。
ハイネスキーの親切な申し出に、登はちょっと迷った。
登はハイネスキーの言葉に甘えて、風が止むまでハイネスキーの家に避難させてもらうことにした。
風はどんどん強くなり、あのまま外を歩いていたら大変なことになっただろう。
登をもてなそうと紅茶をいれてリビングに向かったハイネスキーは、リビングからカーンカーンという奇妙な音が聞こえてくるのに気づいた。
扉の隙間からそっと覗いてみると、登が藁人形に釘を打ち付けている。
その怒りの大きさにハイネスキーは戦慄した。
その時、屋根がめりめりと音を立ててはがれ、ハイネスキーの家がバラバラになりながら空中に舞った。
この竜巻は、しめじ大帝の力によるものだった。登とハイネスキーは、ハイネスキーの家もろとも、空の彼方に吹き飛ばされた。
そして、登は風に飛ばされ、死んだ!
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