作品名:ちょこれーと・らぶ
作者:裂夜
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大学のテストが終わり長期休暇に入って約一週間。

今日は、バイトも無く他の用も入ってないので完全にフリー。

1日寝ていようと思ったが、目が覚めてしまったので朝の情報番組を適当にぼんやりと見ている。

やっている内容は、どこも同じでバレンタイン特集。今年は、男から女にチョコを渡して告白する逆チョコなるものが流行りらしい。

まぁ、私には関係ないけどね。

テレビを見ながら、今日の予定を考えているとケータイが鳴った。

「おっ。愛しの藍ちゃんからだにゃ〜。」

ケータイから流れる着信メロディで誰からかがすぐ分かり、テンションが上がる。

もっとも、設定してあるのは一人だけだが。

「もしもし〜。」

テンション高く電話に出た惠とは裏腹に、電話の向こうの声は低かった。

「もしもし、惠ちゃん。あのね、あのね、相談があるんだけど。」

言いづらそうに、口ごもる藍。

「うん。どうしたの?」

「あのね、気持ちを伝えるにはどうしたらいいかなぁ?」

電話越しの藍の言葉に胸が高鳴る。しかし、それを悟られないように努める。

「気持ちを伝えるって、誰に?」

「あのね、惠と同じゼミの元(はじめ)君いるでしょ。実はね、あの人から去年、告白されたの。でもね、その時は断ったんだよ。」

断ったんだよ。と聞いて喜びを感じている中、自分の中で何かが繋がった。

元とは藍が言ったようにゼミが同じこともあって仲が良い。さらに、受けている科目もほぼ同じで毎日のように会っていた。

そんな彼が去年の11月の終わり頃、やたらと落ち込んでいた。

さらに、考えてみればその前から、しきりに藍のことを私に聞いてきていた。

つまりは、元は、きっかけは知らないが、藍を好きになって、11月に告白して振られて落ち込んでいたわけだ。

「そんなことがあったんだ。」

「それでね、それから色々あって、気付いたら・・・。」

「好きになっていた、と。」

「うん・・・。」

電話の向こうで、恥ずかしそうに頷く藍の様子が浮かぶ。

「それで、気持ちを伝えるにはどうしたらいいかなぁって思って。」

気持ちを伝えたいってことは、告白したいってこと。つまりは、それだけ本気なのだろう。

少しだけ、悔しかった。

「そうだねぇ。じゃぁ、質問。今日は何月何日?」

つけっぱなしのテレビをチラッと見て聞く。

「えっと、2月14日?」

「そう。バレンタインデー。」

「でも、私、チョコなんて用意してないし。」

「じゃぁさ。今からうちに来ない?一緒にチョコ作ろう?手作りの方が気持ちが伝わるよ。」

「大丈夫なの?いきなり行って?」

「大丈夫!今日は1日フリーなのだ!」

最後に、藍が元気になるようにとおどけてみた。

「じゃぁ、今から行くね。」

「うん、待ってるよ。」

電話を切って、よしっ!と、これから好きな人と会える喜びと、落ち込みそうな気持ちを奮い立たせるために小さくガッツポーズをした。




「こうやって、湯煎でチョコを溶かすの。はい、やってみて。」

「うん・・・よいしょと・・・」

「そうそう。上手、上手。ここでね、生クリームを入れると生チョコみたいになっておいしいんだよ。」

「へ〜、そうなんだ。物知りだね惠ちゃん。」

「そんなことないよ〜。それでね、湯銭が終わったらチョコを型に流し込んで冷蔵庫で冷やして固めて、あとは、好きなようにデコレーションをして完成と。」

照れ隠しに早口でしゃべった。

型に流し込んで、冷蔵庫に入れたところであることに気付いた。

「そういえば、元に会う約束してないよね?」

「あ、忘れてた〜、どうしよ〜。連絡先も知らないよ〜。」

「連絡先なら私が知ってるよ。私が、呼び出してあげよっか?それとも、自分でやる?」

う〜、しばらく考え込んで、そして、

「恥ずかしいけど、自分でやる。」

そう、力強く言った。

「じゃぁ、電話するね〜。」

すでに、電話をかける直前まで構えていた。

「あっ!惠ちゃん!早いよ〜!」

「大丈夫、最初は私が出るから。あ、もしもし。あのね、元に話があるって子がいるから代わるね。はい、がんばれ、藍。」

相手に聞かれないように、ケータイのマイクの部分を押さえながら藍に渡す。

元に誰が話があるかを言わなかったのは、せめてもの復讐だ。

「あの!もしもし、藍です・・・。」

緊張からか、声が裏返っていた。

それから、二言三言話をして電話は終わった。

「どうだった?」

「5時に学校近くの公園。」

「じゃぁ、その時間までうちにいなよ。そこならうちから近くだし。」

惠は学校近くのアパートで独り暮らしをしている。待ち合わせの公園も歩いて5分程度の場所にある。

それから、チョコが固まるまでお昼を食べたり、チョコのデコレーションやラッピングについてあれこれ話をしていた。

そして、チョコが固まり、色々と飾ってようやく完成した。メッセージカードもばっちりだ。

「ありがと〜、惠ちゃん!」

「どういたしまして。」

時計を見ると、短針が3と4の間を、長針が9を過ぎたところだった。

「もう、行った方がいいよ。あいつは律儀なヤツだからたぶんもういると思う。」

「えっ!ホント!?急がなくちゃ。今日は本当にありがとうね。それじゃ!」

「藍!」

あわてて出て行こうとする藍を呼び止める。そして、ぎゅっと抱きしめる。

「がんばれ。藍なら大丈夫。きっと、大丈夫だよ。」

優しく、藍に勇気が出るようにと祈ってささやく。

「惠ちゃん・・・・」

顔を上げた藍の目は涙があふれそうになっていた。

「これから、がんばらなきゃいけないのに、泣いてどうすんのさ。よしよし、痛いの痛いのとんでけ〜」

そう言ったとたん、どちらからともなく笑い出した。

しばらく笑って、そして、

「惠ちゃん。本当にありがとうね。大好きだよ。それじゃ、いってきます。」

「いってらっしゃい。」

と、藍を送り出した。

藍が出て行ったドアが閉まると同時に、大きなため息が出た。

「娘を嫁に出す親ってこんな気持ちなのかな。」

チョコ作りの片づけをしながら、あることを思い出した。

「このチョコどうしよう?」

藍と一緒にチョコを作るということだったので、惠もチョコを作ったのだ。

「捨てるのももったいないし、かといってあげる相手もいないし。いいや、食べちゃお。」

ラッピングをといて、中のチョコを取り出す。

出てきたチョコはハート型をしていた。藍に見せる見本として、

『  From K
    to A  』

と、書かれている。

作っている最中は、これで藍が私の気持ちに気付いてくれるかもなどと、淡い期待があったが、当然そのようなことはなく、逆に、

「ねぇねぇ、Aってだ〜れ?」

と、楽しそうに聞かれてしまった。

「あ〜もう!なんでこんなことしたんだろう!」

数時間前の自分の行動が恥ずかしくなった。

「もうそろそろ、藍が公園に着く時間だなぁ。どうなってるかなぁ。」

正直なところ、告白が成功して欲しいという気持ちもあるし、成功して欲しくないという気持ちもある。

でも、結論を言えばどっちでもいい。藍が幸せならそれでいい。それが、私の藍に対する愛の形だから。

藍の幸せを祈りながら、ハートの形をしたチョコを半分に割った。


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