[馬の耳に風]

MAKING APPEND NOTE
薬剤師募集サイト最新ランキング への返事
 長く降り続いた雨もどうやら止みさうになつた。白鼠色の縁をとつた黒い厚い雪がむく/\と漾うて居た。青い空が其間から見られた。太陽は時々強い光を投げた。向うの家の茅屋根から水蒸気が立ち上つて、青桐の広い葉から下の葉の中へ時々ばら/\と滴の落ちる音がした。
 其日は善兵衛の親爺さんが死んでから七日目であつた。昼頃にお説教があるからと触れて来た。お桐は朝の間暫く苦し相な呼吸をして居たが其中に寝入つて了つた。
 平三は表の四畳で京都の親類などへお桐の危篤を知らせる手紙を書いて居た。平七とお光とお夏と三人して家を片附け始めた。お光は絶えずお念仏を唱へて居た。外へ出すものは出して日光に曝し、そこらに出て居る小道具などは一々心覚して何かの場合に必要なもののみを残して其他は皆二階へ上げて了つた。板の間にしてあつた十畳の中の間にも畳を敷いた。家の中はすつかりした。涼しい風が吹き通して納戸の蚊帳の裾を煽つた。畳にすれる音がサラ/\とした。蚊帳の中にはお桐が居るとも思はれぬ程静かであつた。すつかり片付いた時、平七は今敷いたばかりの中の間の畳の上に胡坐をかいて、「あゝ、これであつさりした。かうしてさへ置けば何時でも差支ない。」と独言の様に言つた。
 お光とお夏とは奥の間に箪笥からお桐の衣類を出して小さな声で話して居た。

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