妾達を、追うて来る人でも Ryou 2013/12/25 22:57:51
妾達を、追うて来る人でも [返事を書く] | ||
「妾達を、追うて来る人でも、身体と心との凡てを投じて、来る人はまだいゝのよ。あの人達なんか遊び半分なのですもの。狼の散歩旁々人の後から従いて行くやうなものなのよ。つい、蹉いたら、飛びかゝつてやらう位にしか思つてゐないのですもの。」 美奈子は、母の辛辣な思ひ切つた言葉に、つい笑つてしまつた。男性のことを話すと、敵か何かのやうに罵倒する母が、何故多くの男性を近づけてゐるかが、美奈子にはたゞ一つの疑問だつた。 「青木さんと云ふ方、一緒にいらつしやるのぢやないの?」 美奈子は、やつと、心に懸つてゐたことを訊いてみた。母は、意味ありげに笑ひながら言つた。 「いらつしやるのよ。」 「後からいらつしやるの?」 「いゝえ!」母は笑ひながら、打ち消した。 「ぢや、先にいらつしやつたの?」 「いゝえ!」母は、やつぱり笑ひながら打ち消した。 「ぢや何時?」 母は笑つたまゝ返事をしなかつた。 丁度その時に、汽車が品川駅に停車した。四五人の乗客が、ドヤ/\と入つて来た。 丁度その乗客の一番後から、麻の背広を着た長身白皙の美青年が、姿を現はした。瑠璃子夫人の姿を見ると、ニツコリ笑ひながら、近づいた。右の手には旅行用のトランクを持つてゐた。 「おや! いらつしやい!」 夫人は、溢れる微笑を青年に浴びせながら言つた。 「さあ! おかけなさい!」 夫人はその青年のために、座席を取つて置いたかのやうに、自分の右に置いてあつた小さなトランクを取り除けた。 | ||
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[馬の耳に風]
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