[新しく発言をつくる] [HPへ戻る] [馬の耳に風]

私たち二人だけで

  私たち二人だけで Ryou 2013/10/06 20:55:10 
私たち二人だけで [返事を書く]
「私たち二人だけで、あなたのお部屋へいくことができます」と、バルナバスはいう。
「あれは女中たちの部屋だ」と、Kはいった。「汚なくて、うっとうしい。あんなところにいなくてすむように、君といっしょに少し歩きたいんだ。ただ、頼むが」と、Kはためらいをきっぱり捨て去るために、つけ加えていった。「君と腕を組ませてくれたまえ。なにしろ君のほうが歩きかたがしっかりしているからね」そして、Kは相手の腕にすがった。すっかり暗くなっていて、Kには相手の顔がまったく見えず、その姿もおぼろげであった。Kはその少し前に、相手の腕を探ってつかもうとしたのだった。
 バルナバスはKのいうなりになり、二人は宿屋から遠ざかっていった。もちろんKは感じていた。どんなに努めたところでバルナバスと同じ歩きかたをしていくことができないし、この男の自由な動きを妨げるだけなのだ。普通の場合ならこんなつまらぬことだけのためにいっさいがだめになってしまうのだ。どんな裏通りでだってそうだろう。けさもあの裏通りで雪のなかに埋まってしまったではないか。バルナバスに助けられてこそやっと抜け出すことができるのだ。そう感じたものの、Kはこうした心配を今は捨て去った。また、バルナバスが黙っていることが、彼の気持を楽にした。つまり、二人が黙ったまま歩いていくなら、バルナバスにとっても歩みつづけること自体が、二人のいっしょにいることの目的となっているはずだ。
Ryou 2013/10/06 20:55:10

[馬の耳に風] [HPへ戻る]
新規発言を反映させるにはブラウザの更新ボタンを押してください。



[レンタルPHP] [無料小説] [DVD]